
2000年 福岡大学医学部卒業
2008年 福岡大学病院 神経内科 助教
2009年 福西会病院 神経内科部長
2012年 福西会病院 神経内科・リハビリテーション科部長
2016年9月 おばた内科クリニック開院
『くも膜下出血』は、日本人の死因の4位でもある、『脳卒中』に含まれる病気のひとつです。
くも膜下出血は、発症すると死亡率の高い病気として知られています。そこで、日頃から発症のリスクを下げることが大切です。
この記事では、くも膜下出血症状や前兆、予防について解説します。
くも膜下出血について
1.くも膜下出血とは
名前の通り、脳の『くも膜』の内側に出血がみられる状態を『くも膜下出血』といいます。
脳は、外側から『硬膜』、『くも膜』、『軟膜』の3枚の膜で覆われています。くも膜と軟膜の間に『脳脊髄液』という液体があり、くも膜下出血はこの部分から出血します。
2.くも膜下出血の原因とは
もっとも多い原因は「脳動脈瘤」の破裂
くも膜下出血の原因でもっとも多いのは、『脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)』の破裂です。
脳動脈瘤の大出血に先行して、約半数に数時間〜数ヶ月前に小さな出血の症状(minor leak)として突然の激しい頭痛、吐き気や嘔吐、頸部の痛み、意識障害や視力障害がみられます。
そのほか、脳動脈解離や外傷、脳血管の奇形など
そのほかの原因には、脳血管がさけて出血する『脳動脈解離』や外傷、脳血管の奇形である『脳動静脈奇形』からの出血があります。
飲酒や喫煙などが、くも膜下出血のリスクを高める
また、くも膜下出血が起こりやすくなる要因([『危険因子』)として、『飲酒』や『喫煙』、『高血圧』などが挙げられます。一方で、原因の分からないケースもあります。
3.くも膜下出血の症状について
主な症状は、激しい頭痛と吐き気
くも膜下出血の主な症状は、『激しい頭痛』と『吐き気』です。
多くの場合、今までに経験したことのないような強い頭痛におそわれます。くも膜下からの出血が、脳の痛みを感じる部分を刺激することで、激しい頭痛が引き起こされます。
加えて吐き気や嘔吐、意識を失うといった症状をともなう場合があります。
出血部位によって、けいれん発作を起こすことも
また、出血部位によっても症状は異なります。脳動脈瘤や、脳動静脈奇形から出血している場合は『けいれん発作』を起こすこともあります。
脳内出血や、脳梗塞との症状のちがい
脳内出血や脳梗塞の場合は、半身の運動麻痺をともなうことがほとんどです。頭痛もあまり感じません。しかし、くも膜下出血の場合は、手足の麻痺が生じないことも多々あります。
4.くも膜下出血に前兆はある?
軽い頭痛が生じることも
くも膜下出血の前兆として、『軽い頭痛』が起こることがあります。
この状態では、すでに軽い出血が生じている可能性があります。症状が軽度でも、早めに病院を受診することが大切です。
目の後ろの動脈瘤によって、見えづらさやまぶたの下がりを感じる
また、目の後ろの動脈に動脈瘤ができている場合に、『ものが見えづらい』、『まぶたが下がってくる』などの症状があらわれることがあります。これは、眼球を動かす動眼神経を、動脈瘤が圧迫することで起こります。
くも膜下出血の治療について
1.くも膜下出血の検査法
まず、頭部の「CTスキャン検査」をおこなう
くも膜下出血が疑われる場合、まず頭部の『CTスキャン検査』をおこないます。くも膜下出血が起こっているときに画像を確認すると、出血している部分が白っぽくうつります。
CTで出血が確認できなければ、MRI検査
ただし、出血量が少ない場合や、発症から時間が経っている場合は、CTスキャンで出血が確認できないケースもあります。その場合はMRI検査をおこないます。
MRI検査ではMRAといって脳の血管を造影剤を使用せずに調べることができます。MRAによって出血している場所や動脈瘤の有無を調べることも可能です。
診断が難しい場合は、脳脊髄液を調べる
CTスキャン検査やMRI検査をおこなっても、くも膜下出血と診断できない場合は、『脳脊髄液』に血液が混ざっているかを調べます。脳脊髄液は、背中側の腰椎(ようつい)から針を刺して採取します。採取した脳脊髄液に、血液が混ざっていれば、くも膜下出血と診断されます。
2.くも膜下出血の内科的治療について
内科的治療は脳動脈瘤による出血をいかに抑えるかが重要になります。中心は血圧コントロール、安静、けいれん予防、頭痛や吐き気の治療が中心となります。
しかし、内科的治療だけで、脳動脈瘤の再破裂を防ぐことは難しいです。そのため再破裂を防止するために手術が必要になります。
3.くも膜下出血の手術について
2度目の破裂を防ぐために、手術が必要!
脳動脈瘤は、一度破裂すると、数日で再度破裂することが多いです。2度目に脳出血が起こると死亡したり、重い後遺症が残ったりする可能性が高くなります。
そのため、2度目の出血を予防する手術を、早急におこなう必要があります。
脳動脈瘤クリッピング術
脳動脈瘤クリッピング術は、頭蓋骨を開けておこなう手術で、患者への負担は大きいです。
開頭して出血を取り除きながら、脳のすきまをはがして動脈瘤を取り出します。取り出した部分は金属製のグリップで閉鎖します。グリップは特に理由がない限り、その場に留置したままです。
脳血管内治療による、脳動脈瘤塞栓術
脳血管内治療は、グリッピング術の実施が困難な場所に出血がある場合や、患者への負担を少なくする場合に用いられます。
『カテーテル』と呼ばれる細い管を、動脈瘤の中まで通して、やわらかいプラチナ製のコイルを送り込みます。そのコイルを、動脈瘤の内部につめて閉塞します。
手術できないケースはある?
患者がすでに昏睡状態にある、もしくは出血量が多すぎて命を落とす危険性がある、という場合、手術が難しくなることがあります。
また、出血部位が特定できない場合も、同様に手術が難しくなります。
3.治療後に、「水頭症」を発症することも
脳脊髄液が過剰にたまった状態
くも膜下出血の治療後、『水頭症』という症状があらわれることがあります。
水頭症は、脳脊髄液が頭の内側に過剰にたまった状態です。脳脊髄液が流れる『くも膜下腔』にある血腫が、約1ヶ月かけて周りの組織と癒着し、脳脊髄液に循環障害を引き起こします。これがゆっくり脳の中にたまることで、水頭症が起こります。
水頭症の症状や治療について
水頭症にかかると、症状として『認知症』や『歩行障害』、『尿失禁』などが生じます。
水頭症の治療としては、脳脊髄液を腹腔か心房へ導く管を入れる手術をおこないます。
くも膜下出血の予後や予防について
1. くも膜下出血は再発する?
10年以内に再発する確率は60~80%
くも膜下出血の再発率は非常に高いです。10年以内に再発する確率は60~80%ほどです。
くも膜下出血が再発するワケ
再発する理由は2つ考えられます。
1つは、脳血管の損傷です。手術時にわからなかった血管の損傷があった、1度目の出血の際に損傷し、かさぶたのようになっていたなどのケースがあります。
2つめは、『未破裂動脈瘤』からの出血です。1度目で出血しなかった動脈瘤が、時間とともに大きくなって破裂してしまいます。
手術後も、再発を防ぐための取り組みを!
このようにくも膜下出血は手術を終えてからも、再発する可能性があります。再発を防ぐために、血圧をコントロールしたり、定期検査を受けて経過を観察したりすることが大切です。
2.くも膜下出血の後遺症について
後遺症を残さず社会復帰できる人は約30%
くも膜下出血を発症して、後遺症を残さず社会復帰できる人は全体の約30%です。
50%の人が初回の出血で命を落とします。初回の出血で命を落とさなくても、残りの20%の人には後遺症が残ります。
後遺症は、麻痺や言語障害、感覚障害などさまざま
後遺症は、出血した部位や量、発症から治療までの時間によってさまざまです。
『麻痺』や『言語障害』、『感覚障害』、『記憶障害』、視野がせまくなる『視野障害』などの後遺症が残ることがあります。
3.くも膜下出血の予防法
定期的に、健康診断や脳の検査をうける
くも膜下出血は、症状が出て始めて病気に気がつくことが多いです。そのため、定期的に健康診断や脳の検査を受けることが大切です。
高血圧の人はくも膜下出血で死亡するリスクが3倍?
先に解説したように、『高血圧』はくも膜下出血の危険因子です。
高血圧の人は、そうでない人に比べて、くも膜下出血で死亡する可能性が3倍になるともいわれています。
高血圧は、脳の血管に高い圧力がかかるため、くも膜下出血になる可能性が高まります。高血圧の人は、改善につとめましょう。
喫煙も脳血管に影響を与える
また、喫煙も脳血管へ影響を与え、くも膜下出血を引き起こすリスクになります。禁煙も、くも膜下出血の予防につながります。
ストレスが血管を傷つけることも…女性は特に注意!
さらに、過度なストレスは血管を傷つけ、くも膜下出血のリスクを高めます。特に女性は、ストレスの影響を受けやすい傾向があります。普段から、ストレスや疲れをためすぎないように心がけましょう。
まとめ
くも膜下出血は、発症してから気がつくことも多い病気です。
一方で、定期的に病院を受診したり、前兆を見逃さないようにしたりすることで、予防できるケースもあります。
また、生活習慣の改善も重要です。禁煙や高血圧の改善につとめ、くも膜下出血にかかるリスクを少しでも減らしましょう。
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