
浜松医科大学 同大学院修了 医学博士
神経分子病理学の研究に従事
埼玉医科大学精神医学教室
ジョンズ・ホプキンス大学医学部に短期留学
石心会狭山病院精神科部長
2011年 武蔵の森病院院長
2019年 日本医療科学大学兼任教授
「薬を処方するだけの医療でもなく、かといって話を聞くだけのカウンセリングでもない」医療を目指す。
統合失調症は精神疾患のひとつで、幻覚や幻聴などさまざまな症状を引き起こします。
感情の起伏が激しくなる、意欲の低下、周りとの会話の不一致など社会生活にも影響をおよぼすことがあります。
しかし、地道な治療をおこなうことで症状を軽減させ、ふつうの生活ができるようになることも多い疾患です。
この記事は統合失調症の治療を中心に解説しています。
統合失調症の治療について
統合失調症の治療は、基本的には薬物療法と心理社会的療法を同時におこないます。
1.薬物療法
薬物療法とあわせて精神的なケアやリハビリをおこないます
治療は、薬物療法が基本ですがそれだけをおこなうことはほとんどありません。
まず、入院か通院かを症状の度合いなどによって医師が決定します。
その後、どちらを選んでも精神療法やリハビリなどとあわせて薬物療法をおこなうのが一般的です。
精神を安定させる薬で生活への影響を減らしていきます
精神を安定させる薬(メジャー・トランキライザーなど)を服用して、生活への影響を減らします。
幻覚・妄想のほか、不安・不眠・感情の起伏などをおさえられる薬もあります。
しかし、薬だけで完治はしません。
薬物療法は、次に解説する『心理社会的療法』をより効果的におこなうための治療だと考えてください。
2.心理社会的療法
まずは病気に対しての偏見や誤解をなくします
『心理社会的療法』は、自分自身で勝手に偏見や誤解を持たないよう心理的なアプローチと買い物に行かせるなどの社会的アプローチをはかることです。
そうすることで病気に対して自分自身で偏見や誤解を持たないようにさせ、社会復帰を目指します。
また病気について正しく理解するために、統合失調症について学ぶ時間が設けられることもあります。
生活能力を徐々に高めていきます
統合失調症の症状が出ていると、生活能力が低下して日常生活に支障が出ている可能性があります。
まずはそれらを軽減し、社会の一員として生活できるようになるまで治療を続けます。
例えば、生活をするうえで何をどのようにおこなえば簡単にできるなどを教えていきます。
社会生活に必要な知識や技術を身につけていきます
統合失調症が長くなると、社会的機能がどんどん低下していきます。
そのため、社会で生きるために必要な知識や技術を習うことも治療のひとつです。
挨拶の仕方やビジネスマナーなど、人との接し方を学ぶこともできるプログラムもあります。
3.治療の際の注意点
あせらずに、地道にとりくむことが大切
統合失調症をはじめとする精神疾患は、すぐに病状がよくなったり、完治したりするものではありません。
気長につき合い、地道に治療を重ねていくことが大切です。
家族や周りにいる方も、本人を責めたりせず、あせらずに治療を見守ってください。
医師の指示を守って治療を続けましょう
薬は決められた量を守って服用しましょう。
自己判断で止めたり、増やしたりすることがないようにしましょう。
また、心理社会的療法にも定期的に参加することが求められます。
統合失調症は治る?治療期間は?
1.統合失調症は治る病気?
統合失調症は、完治がむずかしい病気のひとつですが、適切に治療を受ければ約7割の人がふつうの人と同じような生活を送ることができるとされています。
最近は治療法も進歩し、着実に治療をおこなうことで寛解に至る人も多いとされています。
2.統合失調症療のゴールは?
治療を続けていると、ふつうに生活できている状態に見えることがあります。
そのため、本人も周囲も「治ったのではないか?」と思うことがよくあります。
そう思える時期は、たしかに快方に向かっているといえます。
しかし、薬の服用の停止や不眠などをきっかけにぶり返してしまうこともある不安定な期間です。
周りにいる人が声掛けをしたり、本人に今が大切なときだということをきちんと説明したりすることが大切です。
その期間を経て、生活が安定してくると予後は良好といえるでしょう。
3.治療期間の目安は?
治療期間は、数ヶ月から年単位で考えましょう
治療期間は人によってちがうため、はっきりとした目安はありません。人によって症状がちがうため、回復の速度もちがいます。
治療は数ヶ月から年単位で考え、地道な治療を続けることが大切です。
治ったと思ってからもうまくつき合う必要がある病気
治ったと思われる状態(寛解)でも、ちょっとしたことに不安や恐れを感じるなどの症状が残ることもあります。
そのため、寛解後もうまく付き合っていかなければならない病気です。
統合失調症ってそもそもどんな病気?
1.統合失調症は精神疾患のひとつ
現在、100人に1人の割合となっている病気
統合失調症は、心の病とされる「精神疾患」のひとつで、生活にさまざまな影響を及ぼします。
100人に1人程度がかかる病気で、比較的割合の高い病気です。
感覚や思考が正常でなくなり社会生活が困難に
感覚や思考が病気によってゆがんでしまい、それを自覚できなくなることがあります。
当たり前のことができなくなってしまう、ネガティブになったり怒りっぽくなったりしたときには注意が必要です。
また、慢性化しやすく、長期化してしまうことも多いです。
そのため、人との交流や社会的な生活が難しくなってしまいます。
統合失調症の症状とは?
統合失調症の症状は多数あり、それらすべてを把握するのはむずかしいとされています。
そのなかでも多い症状として、幻覚・妄想・生活機能の障害・病識の欠如があります。
1.幻覚
幻聴をともなう幻覚が起こります
幻覚には「幻聴」「幻臭」も含まれます。
現実にはない様々な感覚を感じることです。
実際には聞こえないはずの音が聞こえることがあり、それも自分を卑下したりけなすような言葉が聞こえてきたりします。
まれに「幻視」もあり、実際には存在していないものが見えたりします。
実際との区別がつかないほどリアルな幻覚
幻聴においても幻視においても、実際に存在しているものとの区別がつかなくなるほどリアルに感じます。そのため、周りの人が幻覚による苦しさを理解するのはむずかしいでしょう。
2.妄想
被害妄想が多く周りの声を聞き入れられなくなる
妄想においては自分に敵が襲ってきたり、だれかに襲われそうになったりするなどの『被害妄想』を抱きます。
外にいるときには、「街でだれかが襲ってくる」「だれかに尾行されている」などの危険を感じる妄想が一般的です。
周りが訂正したところで聞き入れることができないのが特徴です。
自分と世界を関係づける誇大妄想も
「自分は世界とつながっている」「世界を動かす力がある」「自分は世界の影響を感じる」など、自分と世界を関係づける妄想もあります。
これも本人は現実として感じているため「それは違うよ」などと誰かに指摘をされるとかなりの精神的な苦痛があります。
3.生活機能の障害
ほかの人とうまくコミュニケーションがとれない
生活においては、話していても話題が急に飛んで会話にならなかったり、突飛な行動をとる、明らかに能率が悪いなどの症状が見られたりします。
感情面でのアップダウンが激しく意欲の低下も
感情の起伏が激しくなるか、まったく感情が動かなくなるかの両極端になることが多いでしょう。
意欲を削がれ活力を落とすなど、日常生活に支障をきたすことがあります。
4.病識の欠如
病識の欠如とは、自分自身が病気であるということが認識できなくなることです。
病気によってあらわれている幻覚や妄想の症状を現実として受け止めてしまい、正常な判断がむずかしくなります。
まとめ
統合失調症は精神疾患のひとつで、簡単には完治できない病気とされてきました。
しかし、最近は治療法の進歩で着実に治療をおこなうことで多くの人が快方に向かっています。
少しずつ日常生活を取り戻し、寛解に至る例も多く報告されています。
統合失調症の治療は、あきらめずあせらず、地道におこなうことが大切です。病気や自分自身とゆっくり向き合いながら、少しずつ社会生活ができる力を身につけていきましょう。
また、家族や周りの方も気長に見守っていくことが大切です。
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