災害によるリロケーションダメージ――。生きる喜びを再発見するには?

リロケーションダメージ
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杉山教授写真1

監修者

神奈川大学人間科学部

心理学者:杉山崇 教授

神奈川大学人間科学部 教授
心理相談センター 所長
臨床心理士(公益法人認定)
1級キャリアコンサルティング技能士(国家認定)

学習院大学大学院修了
精神科、教育、福祉、産業など各領域の心理職を経て日本学術振興会特別研究員に。
神経(脳)活動・心理過程・社会的関係の相互作用を考慮したうつ病研究を行う。
「心理学で幸せを増やす」をテーマに教育研究および心理・キャリア相談に従事する一方でテレビや雑誌などメディアを通じた啓発活動の実績も多数。

日本は水資源が豊かで、温泉にも恵まれています。しかし、その反面、大雨、洪水や火山活動など自然災害も多い国です。近いところでは西日本集中豪雨によって、今なお多くの方が避難生活をされています。

移り住むことによる心理的ダメージ

住み慣れた住まいを追われた人たちに政府も地方行政も、また民間の支援団体も無策ではありません。元通りとは行かないまでも、少しでも早く健康で文化的な最低限度の暮らしに復旧できるようにあらゆる手を尽くしています。

少なくとも衣食住に関しては迅速に不足がないように整えられる仕組みづくりが行われています。さすがに世界をリードする先進国の一つと言えるでしょう。

ただ、特にストレスに弱い高齢者を始めとして、衣食住では語り尽くせない負担に苦しんでいることをご存知でしょうか?

その負担はライフイベントレベルの大きなストレスではありませんが、日々のストレスが積み重なることで結果的に大きなダメージが心身に蓄積されます。そのダメージとは、リロケーションダメージ。移り住みによる心理的なダメージのことです。

移り住むことは大きな喪失体験

災害による避難生活でなくても、移り住むことは喪失体験がいっぱいです。住み慣れた家、昔なじみのお店や人、見慣れた景色…これらのすべてを失うのです。

長く住んだ家であれば、家のいたるところに思い出が詰まっています。あんなことがあったな、こんなことがあったな…と思い出に浸る機会も豊かです。もちろん素敵な思い出ばかりではないかもしれません。しかし、悪くない思い出は「思い出補正」と呼ばれる効果で美化されるもの。

私たちの心は必ずしも今に集中して生きているわけではありません。多くは何気ないきっかけで過去の素敵な思い出にタイムトリップして、幸せな自分を再発見しながら生きているのです。

そして思い出にひたるときの多くは、何かのきっかけで無意識的にタイムトリップがはじまります。ただ、移り住んでしまうと、そのきっかけがとても少なくなります。つまり、私たちはリロケーションによって、思い出に浸る幸せの多くが奪われてしまうのです。

このような喪失体験は、他の人にもわかりやすい喪失体験ではありません。本人ですら、喪失体験をしていることに気づかないこともあります。ですが、悲哀感という心の痛みを引き起こし、少しずつ喜びや生きる意欲、そして命を削っていくのです。

災害によるリロケーションは、ダメージがより深い

ただ移り住むだけでもリロケーションダメージが溜まるものですが、まして災害によって家が流され、街の風景が一変し、これまで当たり前だったものが失われたときの喪失感は計り知れません。

さまざまな支援を受けて衣食住は足りたとしても、心の痛みはじわじわと蓄積して私たちを追い詰めます。そして、最悪の場合は生きる気力を失って、自死に至るという場合もあります。

また、ストレスに弱い高齢者はこのダメージが深刻な病気を引き起こし、友人もいない、知人も限られている避難生活の中で孤独死をするという悲劇も報告されています。

もちろん、一般の引っ越しや移住でも、新しい環境に慣れるためのカウンセリングが必要といわれています。まして、ストレスに弱い高齢者の避難生活であれば、訪問して仲良くなって孤立させないなど、より一層の支援が必要なのです。

リロケーションダメージ_高齢者

新しい暮らしで新しい仲間と絆を深める

とはいえ、移り住むことは私たちの人生において避けられないこともあります。また災害も私たちの意志に反して起こるもの…。さらに日本人の多くは環境の変化に敏感に反応しやすい遺伝傾向者が66%を超える民族です。私たちはリロケーションダメージとどう付き合えばよいのでしょうか。

もっとも大事なことは新しい暮らしの中で新しい仲間を作ることです。仲間がそれまでの暮らしに興味を持ってくれて、以前の暮らしを語らせてもらえたらなおさらです。そのことで、仲間との絆が深まるだけでなく、以前の暮らしや思い出が新しい暮らしの中で新しく作り直されるからです。

ただ、日本人の多くは先ほどご紹介した遺伝傾向の影響で、初対面の人や面識のない人が苦手です。敏感な遺伝子が人を警戒させてしまうのです。では、どうすれば仲間になれるのでしょうか。

最も良いといわれているのは、協力しないと達成できない目標を一緒に行うことです。

掃除でも料理でも修繕でも、協力することで信頼が生まれ、そこに情も生まれます。人付き合いが苦手と協力することに消極的な人がいたら、まずは心理士や介護士、福祉士など関係づくりのプロが足繁く通って関係を作ってあげましょう。

時間はかかりますが、最初は顔を合わせる程度から、少しずつコミュニケーションを増やせば多くの場合で関係が作れます。

リロケーションダメージは私たちの心と命を密かに削る、一種のキラーストレスです。ですが、人は人に癒やされる生き物です。移り住むことになったら、語り合える友を求めて生きる喜びを再発見できたらいいですね。

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