
2006年 北里大学大学院卒
2008年 平塚共済病院内科医長を経て小田原銀座クリニックに入職、その後院長に就任
2013年 12月には当院久野銀座クリニックを開業
早期発見、早期治療を心がけ、健康で心豊かな人生を歩んでいただくことを願っており、内科・消化器内科を中心に幅広い情報の発信に努める。
私たちの身体は、『免疫』のはたらきで健康に保たれています。
免疫システムによって、風邪にかからなかったり、傷が治ったりします。当たり前のようにも思われますが、生まれつき、この免疫システムが機能しない病気があります。
それが『原発性免疫不全症候群(PID)』です。こちらの記事では、原発性免疫不全症候群の種類や、遺伝について解説します。
原発性免疫不全症候群について
1.原発性免疫不全症候群とは?
生まれつき免疫機能に欠損がある病気
生まれつき、免疫にかかわる機能に欠損がある病気を総称して『原発性(げんぱつせい)免疫不全症候群(先天性免疫不全症候群)』といいます。
厚生労働省の定める難病に指定
原発性免疫不全症候群は、発症するメカニズムが明らかになっていません。厚生労働省の定める難病にも指定されています。難病とは、『治療方法が確立していない、希少な疾患であって長期の療養を必要とする疾患』のことです。
日本では年間200人ほどの赤ちゃんが、原発性免疫不全で生まれます。
2. 原発性免疫不全症候群の種類
原発性免疫不全症候群の病気は160以上あります。その中でも、主なものについて解説します。
複合免疫不全症
免疫不全疾患のなかで一番重い病気だといわれています。
『B細胞(液性免疫の主役)』と『T細胞(細胞性免疫の主役)』の両方が欠損しています。
B細胞は、リンパ球の中の免疫にかかわる細胞です。B細胞が主体となって、ウイルスに対抗する『抗体』をつくり、結合して排除する免疫のしくみを『液性免疫』といいます。
T細胞は、『細胞性免疫』の主体となる細胞です。細胞性免疫は、いろいろな免疫細胞が連携して、直接ウイルスを排除する仕組みのことです。
抗体不全症
原発性免疫不全症候群の約半数がこの抗体不全症です。
脊髄(せきずい)のB細胞が分泌する血漿(けっしょう)たんぱく質『免疫グロブリン』を構成するタイプ「IgG」、「IgA」、「IgM」が、不足、欠損している病気です。もしくは血液内の『ガンマグロブリン』の異常な不足(低グロブリン血症)がみられます。
ウィスコット・アルドリッチ症候群(WAS)
『血小板の減少』や、『湿疹』、『易感染性(いかんせんせい)』などの特徴的な症状がみられます。易感染性とは、免疫機能が正常に働かないため、色々なものに感染しやすい状態のことです。
B細胞の免疫グロブリンの分類 | 免疫グロブリンの種類 |
γ(ガンマ)-グロブリン | IgG、IgA、IgM、IgD、IgE |
α1-グロブリン | α1-アンチトリプシン |
α2-グロブリン | ハプトグロビン、セルロプラスミンなど |
β-グロブリン | β-2マイクログロブリン、プラスミノーゲンなど |
高IgE症候群
高IgE症候群は、易感染性と『IgE』が高い値になる病気です。ウィスコット・アルドリッチ症候群と同じく、特徴的な症状をともなう免疫症候群です。
免疫調節障害
ウイルス感染した細胞やがん細胞を死滅させる『キラーT細胞』や『NK細胞』によって免疫機能がダメージを受けたり、免疫調節障害により、自らの細胞に対して抗体を作ってしまったりする状態です。
食細胞の異常
白血球の一種である、好中球(こうちゅうきゅう)を中心とする『食細胞』(マクロファージ)の機能や数が生まれながらにして欠損している状態です。好中球を中心とする細菌感染が起こりやすく、抗生剤などの薬の効果もあまりみられません。
自然免疫不全症
人間が生まれながらに持つ免疫(『自然免疫』)が障害されている病気です。『単純ヘルペスウイルス脳炎』や『皮膚カンジダ』などの病気にかかりやすくなります。
自己炎症性疾患
自然免疫が過剰に活性化され、全身に慢性的な炎症を引き起こす病気です。発熱や関節炎など、全身に炎症が繰り返しあらわれます。
補体欠損症
異物が侵入してきたとき防御する役割を持つ『補体たんぱく』や、その各成分が欠損している病気です。
2.原発性免疫不全症候群の症状
いろいろな病気にかかりやすい
先に解説したように、免疫機能が正常に働かないため、体に異物が侵入してきてもそれを防ぐことができません。そのためいろいろな病気にかかりやすいです(易感染性)。健康な人であれば、感染しないような病原菌でも感染を起こすことがあります。
風邪や気管支炎、中耳炎を繰り返す
風邪や気管支炎、中耳炎などに感染をくり返します。薬を服用していても、症状が長引いたり、『敗血症』や『骨髄炎』にかかるなど、重症化したりします。
生後半年ごろから難治性の下痢を起こすことも
生後半年くらいからは『難治性下痢』 を起こすことがあります。また、成長とともに、成長や発達に障害をもたらすこともあります。
その他さまざまな病気やアレルギー、がんを引き起こす
その他にも、『慢性結膜炎』や『脱毛症』、『進行性種痘疹(しゅとうしん)』、『難治性リンパ節炎』、『吸収不全症候群』など、様々な病気にかかりやすくなります。
それから、アレルギーや悪性腫瘍(がん)を引き起こすことも多いです。
原発性免疫不全症候群と遺伝について
1.遺伝子の異常が原因でおこる
約6割はX染色体に原因遺伝子がある
原発性免疫不全症候群は、免疫系の遺伝子異常によって起こる病気です。そのうち、X染色体に原因遺伝子がある場合が6割近くです。
原因遺伝子を持っていても発症しないことも
また、原因遺伝子を持っていても発症しない(保因)ケースもあります。そのため、家族内に免疫不全症候群を発症している人がいなくても、生まれてくる子どもが免疫不全症候群を発症することもあります。
2.発症する割合について
X染色体が原因遺伝子の場合は、生まれてくる男の子が発症します。
特に母親が原因遺伝子を持っている場合、生まれてくる男の子は50%の確率で発症、女の子であれば50%の確率でその遺伝子を保因し、発症しないこともあります。
原因 | 生まれる子供の性別 | 発症 |
X染色体が異常の場合 | 男の子 | 男の子が病気にかかる(発症) |
母親が原因遺伝子を保因 | 男の子 | 50%の確率で病気にかかる(発症) |
母親が原因遺伝子を保因 | 女の子 | 50%の確率で保因(発症しない) |
近年は、遺伝子検査を行うことで原発性免疫不全の遺伝子を持っているかの確定診断ができるようになってきています。
原発性免疫不全症候群にかかったら…注意すること
1.ウイルスや細菌の感染を防ぐ
健康な人よりも色々なウイルスや細菌などに感染しやすいということを、常に念頭に置きましょう。日常生活では、次のことを意識しましょう。
・ウイルスや細菌の多いところには近寄らない
・外出の際はマスクをする
・帰宅したら手洗い・うがいをする
2.食中毒菌の感染を予防する
また、食中毒菌の感染を予防するために、食事では次のことに注意しましょう。
・できるだけ加熱したものを食べる
・鮮度の高い食品を選び、古くなったものは避ける
まとめ
原発性免疫不全症候群は、赤ちゃん1万人のうち1人の確率で生まれ持つ病気です。
命をおびやかす症状があらわれることもありますが、早期に発見し、治療を始めることで、問題なく日常生活を送っているかたも多くいらっしゃいます。
専門の医師がいる医療機関で診てもらい、治療や日々の過ごし方について、しっかりと主治医の指示にしたがいましょう。
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