
北総合病院 初期・後期研修医(一般外科コース)
国立国際医療研究センター病院 乳腺内分泌外科 フェロー
2018年より現クリニック勤務
乳腺症とは、どんな病気かご存知でしょうか?
乳腺症と診断を受けた人の中には、「悪化したら、乳がんになってしまうの?」「乳がんになりやすいんじゃないの?」と、不安に思う方もいるかもしれません。
この記事では、そんな乳腺症が、どんな症状でどんな検査や治療を行うか、また乳がんとの違いや関連性を含め、詳しく解説します。
乳腺症と乳がんの違い
1.乳腺症とは
乳腺の良性の変化
乳腺症とは、乳房の中にある乳腺の良性の変化であり、女性ホルモンがバランスを崩す(女性ホルモンのエストロゲンが過剰な状態になる)ことによって起こります。
しこりを伴うこともある
乳腺症は、正常な乳腺組織が増殖、萎縮、化生(他の細胞に変化すること)した状態が混在するため、周りの乳腺より硬く触れ、しこりとして自覚することもあります。
乳腺症は、胸にしこりがあることで病院を受診する患者さんの中で、比較的多い良性の変化です。
発症年齢
さまざまな年代の女性が発症しますが、多くは30代後半から40代の閉経前の女性に見られます。
特徴
基本的に両方の胸にしこりが見られ、生理周期などホルモンの変化によりしこりが張ったり、おさまったりすることがあります。
乳房全体に痛みを感じることもあれば、しこりあたりが強く痛む、つられる感じがする、ちょっとでも当たるとすごく痛いなどさまざまです。
乳首から白・透明・うすい黄色といった分泌物が見られることもあります。。生理が終われば症状が軽度になることが多いのが特徴です。
治療
閉経すると自然とよくなっていくことが多いので、治療を行わずに症状を和らげたり、経過観察をしたりすることが多いと言えます。カフェイン、脂肪の多い食事、たばこは乳房痛の原因と考えられているので、これらの生活習慣を改善させることも大切です。
自己判断は危険
しかし、しこりは乳がんなど他の病気である可能性もあるため、自己判断は禁物です。
しこりが大きい、硬いなど重度であったり、乳がんとの判別が難しかったりすれば、組織を抽出するなど別の検査が必要になります。
2.乳がんとは
乳房にできる悪性腫瘍
乳がんは、乳房にできる悪性腫瘍です。母乳を乳頭まで運ぶ乳管から発生することが多いです。早期に発見すれば、治る可能性が高いがんです。
乳がんは大きく二つに分けられる
乳がんは、乳汁を作る「小葉」が悪性化した「小葉がん」と、乳首までの通り道である「乳管」が悪性化した「乳管がん」に大きく分けられます。
発症年齢
乳がんを発症する年代でもっとも多いのが、30代後半から40代と言われています。
しかし、20代前半~30代前半の女性でも乳がんを発症することはあります。
日本女性の中でもっとも罹患率の高い悪性腫瘍ですので、すべての女性に注意が必要です。
3.乳腺症と乳がんはどう違う?
治療が必要かどうかという点が大きく異なる
乳腺症と診断されれば、経過観察となり、多くの場合治療は必要ありません。
ただし、痛みが強い場合は、痛みを抑えるために薬物による治療が行われます。
女性ホルモンであるエストロゲンが過剰になっていることから、抗エストロゲン剤(ダナゾール)や痛みが強ければ鎮痛剤を使うこともあります。
対して、乳がんは見つかれば、早期に手術や薬物療法などの治療をする必要があります。
乳腺症は、生理周期によってしこりの感じ方や痛みが違う
乳房にしこりができたり、乳頭から分泌物があったりするのは、乳腺症にも乳がんにも見られる症状です。
違いとしては、乳腺症には「症状の周期性」があるということです。乳腺症は、生理の周期に合わせて、しこりを感じたり痛みが強くなったりします。だいたいの人は生理前が一番症状を強く感じ、生理後になると弱まるという周期性をもっています。
対して、乳がんには症状の周期性はありません。
乳腺症のしこりには痛みがありますが、乳がんのしこりにはほとんど痛みがないという違いもあります。
4.乳腺症が原因で乳がんになる?
乳腺症が原因で乳がんが発症するという考えは、ほぼ否定されています。
大多数の乳がんは、乳腺症とは関係なく発症しています。
乳腺症と乳がんのしこりの見分け方
1.乳腺症と乳がん、しこりの違いは何?
乳腺症のしこりは正常な乳腺組織が一部で増えすぎて硬く触れるものや、乳腺組織からの分泌物や水がたまった『のう胞』などであり、いずれも良性の変化です。
対して、乳がんのしこりは悪性腫瘍です。
2.しこりができる部位
乳腺症
乳腺症のしこりは、乳腺がある場所にできます。
乳房全体が張って、触ると全体がゴツゴツとした触感になっているというのが特徴です。
一般に柔らかく膨らんでいるところに乳腺組織はあります。副乳と言って、わきに近いところに乳腺組織がある人もいて(歯で言う親知らずのようなもの)、副乳がある人はわきの近くに張り感を訴える場合もあります。
乳がん
乳がんができる位置は人それぞれなので特に決まってはいませんが、比較的乳がんができやすい位置としては乳房の外側上部、次に内側上部があげられます。
3.触れた感覚
乳腺症のしこり
乳腺症のしこりは触ると、全体がでこぼこしています。
境界がわかりづらかったり、規則性がない粒状(粉末よりも大きい粒)であったり、結節状(直径1センチ以上の固形成分の隆起)であったり、皿状であったり、さまざまです。
のう胞の場合は、境界がはっきりしている球形や卵形のしこりもあります。どちらも大きさや形はさまざまです。
乳がんのしこり
乳がんのしこりは触ると硬いのが特徴です。
つるっとしているものから、でこぼこしているものまであります。
他には、乳房の皮膚の表面が陥没して見えたり、ひきつれて見えたりすることがあります。
乳頭が傾いてきたり、その周辺がただれる、変形することもあります。
乳腺症と乳がん 症状と特徴の比較
乳腺症 | 乳がん | |
---|---|---|
腫瘍 | 良性 | 悪性 |
治療の必要性 | 経過観察 | 早期の治療が必要 |
発症年齢 | 30代後半~40代 | 40代以降 |
原因 | ホルモンバランス | がん細胞が異常に増殖する |
しこり | 痛みがある | 痛みがない |
感触 | 大きさや形はさまざま、乳房全体に | 硬い・表面の陥没・ひきつれ |
周期性 | 生理前に特に強い痛みが出る | 症状に変化は見られない |
乳腺症と乳がんを見分ける検査
乳腺症の診断は、問診・視診・触診を行います。
1.問診で聞かれること
生理の状況、妊娠や分娩の回数、乳腺の病気にかかったことがあるか、血縁者の中にがんの人がいないか、いつから症状があるか、などを聞きます。
2.視診
腕を上げたり下ろしたりして、乳房のひきつれやへこみを診たり、乳首に左右差がないかどうかなどを診ます。
3.触診
あおむけに寝て力を抜き、手を上方外側に上げてもらいます。こうすることでお山型のお胸がより平たくなるため、触りやすくなります。乳房の状態を見て、手のひらや指先で触れてしこりが触れるどうか詳しく調べます。同時に、周りのリンパ節も腫れていないかチェックしていきます。(わきの下、鎖骨や首の周りなど)
4.視触診の他に行う画像検査
視触診だけで良性か悪性か判別することはできないので、だいたいは続けて、マンモグラフィー検査(乳房を透明な圧迫版で挟んで撮影、その画像を見て診断する検査)や超音波検査(ゼリーを塗って、乳房の表面から超音波ビームをあてて、跳ね返ってくる音波を画像化して診断する検査)を行います。
5.細胞診・組織診
マンモグラフィー検査や超音波検査でがんの可能性も考えられる場合や、病変が比較的大きいもの、初めて指摘されたものについては細胞診や組織診が追加されます。
マンモグラフィーや超音波は「しこり」の影を見ているだけで、その影は何で構成されているか、どういった細胞が含まれているか、まではわかりません。「確定診断」をするためには、画像で見えているしこり部分から細胞や組織をとってきて、それを顕微鏡の検査で見てみる必要があります。
採血くらいの細い針を刺して、針の先についてきた細胞を顕微鏡で見るのが細胞診、局所麻酔をしてからボールペンの芯くらいの針を刺して、しこりの組織を塊りで削り取ってくるのが組織診です。
いずれも超音波でしこりの場所を確認しながら行いますが、しこりが小さかったり、硬かったりすると診断に必要な細胞や組織が十分とれないこともあります。
まとめ
乳腺症はホルモンの作用が原因。積極的な治療は必要ない
乳腺症は、生理の周期により変化するホルモンの作用が原因で起こりますが、閉経後でも起こります。
乳腺症は、疼痛が強くなければ積極的な治療は必要なく、乳がんになりやすいということもありません。
胸にしこりがあれば、自己判断せず医師へ相談を
しかし、乳房のしこりや乳頭からの分泌物など、乳がんに似ている症状もありますので、何か気になる症状に気づいた時には、自己判断はせずに、すぐに乳腺専門の医師がいる病院を受診することをおすすめします。
胸のしこりを見つけると、すぐに乳がんを疑ってしまいますが、他の病気である可能性も十分にあります。
最低月に1回、自分で触って確認する自己触診を行うことが大切です。
しこりなどの症状が見られたとしても、焦らずに乳腺外科や乳腺科、また外科の診療科のある病院で検査を受けましょう。
日本では40歳以上は2年に1回マンモグラフィー検診を受けることができます。保険診療より安価にマンモグラフィー検査を受けることが可能ですし、定期的に案内がくるものですから、これは必ず利用するようにしてください。住んでいる自治体によって受診法は異なるので、ご自身の自治体で行われているがん検診についてこの機会に調べてみましょう。
自治体によっては30歳以上の方に超音波検診を提供しているところもありますし、会社の健康診断でオプションでつけられる場合など、さまざまです。
自分の周りにある制度をうまく利用して、定期的に乳がんチェックをしてみてください。
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