
浜松医科大学 同大学院修了 医学博士
神経分子病理学の研究に従事
埼玉医科大学精神医学教室
ジョンズ・ホプキンス大学医学部に短期留学
石心会狭山病院精神科部長
2011年 武蔵の森病院院長
2019年 日本医療科学大学兼任教授
「薬を処方するだけの医療でもなく、かといって話を聞くだけのカウンセリングでもない」医療を目指す。
周りの子ができることをうちの子はできない・学習についていけない教科がある・学校の宿題や勉強を嫌がる・音読や計算ができない…お子さんのこんな症状は、学習障害によるものかもしれません。
この記事ではチェック項目を設け、学習障害について解説します。
症状をよく理解し、お子様が当てはまるか確認してみましょう。
学習障害(LD)について
1.学習障害とは?
学習障害(LD=Learning Disorderの略)とは、子どもの発達障害のうちのひとつです。
全体的な知的障害はありませんが、次のうちいずれかの能力だけ取得に著しく困難がみられ、日常生活や学校生活に支障をきたす状態です。
- 聞く
- 話す
- 読む
- 書く
- 計算する(または推論する)
すべての能力に必ず困難があるわけではなく、例えば読む能力があるのに書くのは苦手、ほかの教科は問題ないのに算数だけ著しく理解ができないなど、ある特定の分野に偏りが見られます。
2.学習障害の種類
学習障害は主に3つに分類されます。
読字障害(読みの困難)
文字や記号等といった書き言葉に困難を示す状態です。書字障害と併発するケースが多いです。
書字障害(書きの困難)
文字を書くことに困難を示す状態です。同じく、読字障害と併発するケースが珍しくありません。
算数障害(算数、推論の困難)
数字や数式の扱いや、推論(考えて答えにたどり着くこと)に困難を示す症状です。
3.学習障害の原因は?
学習障害は本人の怠けや親のしつけなどが問題ではなく、中枢神経系に生まれつき何かしらの機能障害があることが原因だとされています。
とはいえ、具体的にどのような機能障害を起こしているかは明確ではない状態です。
親族に学習障害の人がいる場合に発症率が上がることから、遺伝的素因が強いと考えられていますが、そのメカニズムはまだ解明されていません。
4.ADHDとの違いは?
学習障害と似た症状がみられるADHD(=Attention-Deficit/Hyperactivity Disorderの略)は、日本語で『注意欠陥多動性障害』と言います。
学習障害児は学業上の問題を抱えるのに対し、ADHD児は行動上の問題を抱え、学校や家庭内において不注意・多動性・衝動性が現れるという特徴があります。
ただし、ADHD児は学習障害を併発するケースが多いため、その違いを区別するのは専門家でも大変難しい場合があります。
学習障害チェック~幼児から中学生まで~
1.幼児
幼児の学習障害児や、ADHD、自閉スペクトラム症などの発達障害児には以下の様子が見られることがあります。チェックしてみましょう。
- 人の話を聞いていない、またはよく聞き返す
- 集中できず、周りの刺激が気になる
- 視線を合わせようとしない
- 歩き方がぎこちなく、よく転ぶ
- 言葉や文字を覚えるのが遅い
- 手先の不器用さがあり、お箸やハサミなどをうまく持てない
幼児は年齢的に学習障害の判別が難しい
こうした様子は年齢的に健常発達児にも見られるものであり、当てはまっても学習障害の確信は持てません。
また、母親が「この子は少し発達が遅れているだけだ」と思っても、園内生活の中で先生が学習障害に気づく場合もあります。
実際に診断が下される時期は、国語や算数の学習が始まる小学校以降がほとんどですが、疑わしい症状が現れたら専門家に相談して経過を見てもらうと良いでしょう。
2.小学生
小学生になると本格的に学習が始まり、特定の科目だけが苦手な場合や読み書きが苦手な場合など、学習障害児の持つ特徴が表れやすくなります。
ここからは就学期に入るため、読字障害・書字障害・算数障害ごとのチェックになります。
読字障害
- 文字を上手く読めない
- 文章の内容が理解できない
- よく似た文字が理解できない
- 文字や文章を逆さに読んでしまう
- たどり読み、推測読みになってしまう
- 文字や単語、行などを飛ばして読んでしまう
- 文章を見ているとどこを読んでいるかわからなくなってしまう
- 字を読むと頭痛がしてくる
- 文章を読むのを嫌がる
書字障害
- 黒板の文字を書き写すのが難しい、時間がかかる
- 作文が書けない
- 読点が理解できない
- うまく文字を書くことができない
(正しい文字が書けない、鏡文字を書いてしまう、正しいつづりができないなど) - 字の大きさがバラバラで、行やマス目から極端にはみ出すことがある
- 文字を書くのを嫌がる
算数障害
- 「0」「1」「2」など数字の概念や規則性を理解・認識できない
- 「+」「-」などの記号を理解・認識できない
- 繰り上がりや繰り下がりが理解できない
- 数の大小の理解が困難
- 数が数えられない、飛ばして数えてしまう
- 時計が読めない、時間が分からない
- 計算ができない、計算のきまりが理解できない
- 計算を嫌がる
- 筆算をするときに数字がずれて間違えてしまう
- 長さや重さ、図形の概念が理解できない
3.中学生
中学生以上になると、はっきりと学習能力の偏りが見えてきます。
全般的な知能は問題ないのに何かの能力が極端に低い場合、本人の怠けや不得意が原因ではなく学習障害である可能性があります。
中学では英語の学習が始まるので、今までひらがな・カタカナ・漢字の学習で困難を示していなくても、英単語のつづりなど、国語とは異なる英語の特性につまずいてしまうこともあります。
読字障害
- 小学生で習う漢字でも読めない場合がある
- 英単語が読めない
書字障害
- 文集などの長い作文が書けない
- 英単語が書けない、綴りを間違える
算数障害
- 計算はできるが文章問題ができない
- 量や図形などに関連した問題が解けない
学習障害が疑われる場合の対処法
1.何科で相談するべき?
学習障害は、小児科・精神科・児童精神科などで診断を行います。
医療機関によっては取り扱っていないところもあるので、直接電話して聞いてみるかホームページで確認してみるといいでしょう。
また、市町村保健センター・子育て支援センター・児童相談所・都道府県の発達障害者支援センターなどでも相談を行っています。
希望に応じて医療機関を紹介してもらうこともできます。
2.学習障害の診断方法
問診
学習障害の診察では、まず生育歴や病歴、現在困っていることなどを聞かれます。
母子手帳や小学校の通知表、小学校や中学校で書いた作文、幼少期の様子を記録したものなどを資料として持参しても良いでしょう。
他の病気がないか検査
脳に出血や梗塞、腫瘍、てんかんなど、器質的な病気が無いかどうかを検査することもあります。この場合は頭部のCT、MRI、脳波検査などを行います。
知能検査
問診などの結果、学習障害の疑いがみられたら次のような知能検査を行い、知的な発達にどの程度の遅れがあるかを推定します。
- WISC:5歳0ヵ月~16歳11ヵ月が対象(最も一般的な方法)
- WAIS:16歳以上が対象
- ビネー:2歳~成人が対象
- WPPSI:幼児が対象
そこで学習障害の可能性が高いと判断されると、次の検査を行うことがあります。
- PRS
- K-ABC
- DN-CAS
これらの検査では聴覚からの理解力、記憶力、話し言葉における表現力、さらには社会的行動の能力、コミュニケーション能力などを調べます。
総合判断
こういった情報をもとに、総合的に学習障害であるかどうかを判断します。また、ADHDや自閉スペクトラム症が合併しているかも確認します。
3.子どもと接するときに気をつけること
学習障害では特定の分野だけに困難があらわれるため、本人の努力でどうにかなると認識されることがあります。
周囲の人に「頑張ればできる」「努力が足りない」「勉強不足」と思われてしまうと、プレッシャーに繋がります。
また、学年が上がるほど自他ともにその違いに気づきやすくなり、本人が劣等感や疎外感を持ってしまう可能性もあるため、そのままにしておくと自尊心や達成感が育ちません。
そのため家庭では、その子にとって一番の安らぎの場であるよう愛情をたくさん注いであげましょう。
学習障害だと診断されたらできないことを責めず、得意なことにも目を向けてあげて下さい。
両親は学習障害について理解し、協力してサポートしていきましょう。
まとめ
学習障害は早期発見と適切な治療・支援によって、本人の受ける苦痛を和らげることができます。
学習障害と診断されると、学校などの集団生活で学習障害によって不利を招かないよう、治療と同時にその子に応じた支援が始まります。
障害があるからと何かを諦めたり、お子さんを失敗から遠ざけたりすることはおすすめできません。
そうではなく「障害がある中でできる限りの努力をして、失敗しても自分の力で乗り越えられる」ように、専門医や学校などの支援機関と連携しながら対応していきましょう。
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