
2006年 北里大学大学院卒
2008年 平塚共済病院内科医長を経て小田原銀座クリニックに入職、その後院長に就任
2013年 12月には当院久野銀座クリニックを開業
早期発見、早期治療を心がけ、健康で心豊かな人生を歩んでいただくことを願っており、内科・消化器内科を中心に幅広い情報の発信に努める。
副甲状腺機能亢進症は、以前は非常にまれな病気だと思われていました。
しかし、健康診断などの血液検査に自動分析器が使用されるようになり、これまで気づいていなかった人が、実は副甲状腺機能亢進症だったと判明するケースが増えています。
この記事では、副甲状腺機能亢進症がどんな病気か、手術などの治療法や検査法について解説します。
副甲状腺機能亢進症とは
1. 副甲状腺機能亢進症って?どんな病気?
副甲状腺ホルモンの過剰分泌によって起こる病気
『副甲状腺機能亢進症』とは、副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌されることで起こる病気です。
『高カルシウム血症』や『低リン血症』、『骨粗しょう症』、『尿路結石』、『腎障害』などを引き起こすおそれがあります。
そもそも、副甲状腺とは?
副甲状腺は、『副甲状腺ホルモン(PTH)』を産出する器官です。
通常、甲状腺の背面に4つ存在します。色は黄褐色で、大きさは4~5mmで米粒ほどです。ひとつあたりの重さは30~60mgと、とても小さい内分泌腺です。
副甲状腺ホルモン(PTH)のはたらき
副甲状腺ホルモン(PTH)は、体のカルシウムやリンのバランスを調整する役割をになっています。
健康な人であれば、血中カルシウムが減少すると、PTHが増加します。
それにより、骨に保存されているカルシウムが血中に溶け出して、血中カルシウムの濃度を調整します。血中カルシウムの濃度が正常な値に戻ると、PTHの分泌もおさまります。
2. 副甲状腺機能亢進症は3つに分けられる!
副甲状腺機能亢進症は、次の3つに分けられます。
原発性副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺の機能に異常が生じることが原因で、PTHが過剰に分泌されます。これにより、血中カルシウム値が上昇して、尿から大量に排泄されます。
二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症
二次性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺以外の異常が原因で、慢性的な腎疾患や、ビタミンDの不足が生じます。それにより、PHTが過剰に分泌されます。
二次性副甲状腺機能亢進症の主な原因は、『慢性腎臓病』です。副甲状腺が過剰に作られる『過形成』やカルシウム、リンなどのミネラル代謝障害、血液中のカルシウム濃度上昇などが起こります。
三次性副甲状腺機能亢進症
二次性副甲状腺機能亢進症が長期間続き、進行してカルシウム血症を引き起こすと、三次性副甲状腺機能亢進症になります。
慢性腎不全にかかっている人のうち、高カルシウム血症の症状もみられる人は、三次性副甲状腺機能亢進症になることが多いです。
3.副甲状腺機能亢進症の原因とは?
副甲状腺機能亢進症の原因は、未だ解明されていない症例も数多くあります。現在分かっている原因には、次のものがあります。
原因の80%は腺腫!
副甲状腺機能亢進症の原因の約80%は、腺腫によるものです。
腺腫ができることで、副甲状腺のひとつが腫れ、過剰にホルモンを分泌してしまいます。
副甲状腺の過形成
副甲状腺機能亢進症の原因の、約10~15%が、過形成です。
4つの副甲状腺すべてに異常があらわれ、過剰にホルモンを産出します。遺伝的な病気である、『多発性内分泌腺腫症』と同時に起こることが多いです。
がん
がんによって、副甲状腺が腫れて大きくなり、高カルシウム血症が起こりやすくなることもあります。
4.副甲状腺機能亢進症の症状
副甲状腺機能亢進症の症状は、おもに次の3つに分けられます。
骨への影響
骨に含まれる、カルシウムなどミネラルの量(『骨量』)が減少し、骨が弱くなることで、骨の痛みや変形、病気が原因で起こる『病的骨折』などが起こりやすくなります。
また、骨からカルシウムが異常に溶け出てしまうことで、骨の中のカルシウム量が減少し、『骨粗しょう症』を引き起こすこともあります。
腎機能への影響
尿道に結晶ができる『尿路結石』にかかったり、腎機能に障害が起きたりします。
腎機能に影響が起こっていても、自覚症状がないことも多く、自分が副甲状腺機能亢進症だと気付かないこともあります。
神経や消化器系への影響
精神系、神経系に起こる症状として、うつのような状態、疲れやすい、筋力の低下、強いイライラ感、不眠などの症状があらわれることがあります。
また、消化器系に『膵炎(すいえん)』や『胃十二指腸潰瘍』などの症状が起こることもあります。
副甲状腺機能亢進症の治療や検査について
1.副甲状腺機能亢進症の検査
まずは血液検査で、カルシウムやPTHの値を測定
まずは血液検査をおこない、『カルシウム値』や『PTH値』を測定します。
その結果、『高カルシウム血症』や『高PTH血症』がみとめられる場合は、副甲状腺機能亢進症と診断されます。
つぎに、副甲状腺に腫瘍があるかを調べる
つづいて、副甲状腺に腫瘍があるかどうかを調べます。
一般的なのは『頸部(けいぶ)超音波検査』です。
頸動脈に超音波をあてて、その様子をモニターに映し出し、血管の様子を調べる検査です。これで、甲状腺裏側に腫瘍があるかを調べます。
甲状腺の機能を調べる検査をおこなうことも
甲状腺の機能を調べる検査法として、『シンチグラム』を用いることもあります。
シンチグラム検査では、『アイソトープ(放射線ヨウ素)』を使用します。検査を受けるときはアイソトープカプセルを飲み、甲状腺腺を撮影して、機能を調べます。腫瘍が小さく、超音波検査ではみつけられないときにも役立ちます。
そのほか「CT」や骨のミネラル量を測定する検査
そのほか『造影CT検査』や『骨塩量測定』をおこなうこともあります。
造影CT検査は、一般的に、病気による副甲状腺の肥大部位を診断するための検査です。
骨塩量測定は、骨に含まれるカルシウムやマグネシウムなどの、ミネラルの量を測定する検査です。一般的に、腰椎、大腿骨、前腕骨の3部位で測定します。
2.副甲状腺の腫瘍に対する治療
手術による切除
腫瘍に対する治療は、『外科的切除(手術)』が第一選択です。
腫瘍がひとつであれば、その腫瘍の切除をおこないます。
過形成の場合は、4つの副甲状腺すべてが腫れているため、3つの腫瘍を切除し、残りひとつは一部を切除するか、4つすべて切除して、ひとつを前腕の筋肉内へ移植します。
そのほか薬やエタノールの注入による治療
腫瘍に対する治療法としては、手術による切除が第一ではあるものの、薬を用いたり、エタノールを注入したりする治療をおこなうこともあります。
3.副甲状腺機能亢進症によって起こる、カルシウム血症の治療
症状が強い場合は、早急な治療が必要!
高カルシウム血症は、症状が強く出ている場合は、命にかかわる可能性もあるため、早急に治療をおこなう必要があります。
点滴などで水分を加えて、血中カルシウム濃度を低下させます。同時に、カルシウムを骨に戻す『カルシトニン』というホルモンを投与します。
症状がなければ経過観察も可能なものの、要注意
症状が全くなければ、経過観察をすることも可能ですが、骨粗しょう症や、腎結石などの病気が進行してしまうおそれもあるため、注意が必要です。
手術後の症状や完治について
1.手術前~手術後のケアや症状
手術前は、カルシウムやビタミンDを服用することも
手術前は、カルシウムやビタミンDを服用することもあります。
これは、手術後にカルシウムが骨に取り込まれることで、血中のカルシウム濃度が低下したり、副甲状腺を切除することで、残っている副甲状腺のはたらきが鈍くなったりすることがあるためです。
手術を終えてすぐは痛みや首のむくみを感じることがある
手術を終えてすぐは、傷口や、ものを飲み込むときに痛みを感じることはありますが、数日でおさまります。
また、手術をした首周辺が、むくんだようになることもあります。こちらも、多くの場合3か月後にはもとに戻ります。
皮膚の感覚が元に戻るのは難しい
手術後、甲状腺を切除するために皮膚をはがした箇所に、つっぱり感や圧迫感を覚えることがあります。こうした皮膚の感覚が完全に元に戻ることは難しいです。
2.副甲状腺機能亢進症は再発する?完治について
副甲状腺機能亢進症は、一度の手術で完治させることは困難です。
術後、カルシウムの値が十分低下しないことも
手術をしてもカルシウム値が十分に低下せず、高カルシウム血症の状態が続いてしまうこともあります。
そのほか、完治を妨げる要因
そのほか、一度の手術で完治しないことから考えられるのは、過形成の場合の切除が不十分であることや、良性の診断が出ていても、実際にはがんで再発する、移植した副甲状腺が過剰にホルモンを産出するようになる、などの要因です。
まとめ
副甲状腺機能亢進症の診断法や治療法は、日々進歩しています。
副甲状腺機能亢進症によって生じる合併症や障害は、ひどくなると、手術をしても完治が難しくなってしまいます。少しでも体調に不安を感じたら、早めに内科などの医療機関を受診しましょう。
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