性格の変化に戸惑いも…小児の高次脳機能障害を正しく理解する【言語聴覚士コラム】

高次脳機能障害
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執筆者

澤田久美子 先生

言語聴覚士

北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 言語聴覚療法学専攻

耳鼻咽喉科ののはなクリニック
横浜市立大学医学部付属市民総合医療センター 耳鼻咽喉科
東京慈恵会医科大学付属病院 耳鼻咽喉科
東京慈恵会医科大学付属第三病院 耳鼻咽喉科

こんにちは、言語聴覚士の澤田久美子です。

お子さんが転倒や転落、交通事故やスポーツ事故などで頭を強く打って脳震盪を起こしたり、意識がなくなったりしたことはありませんか?

こうしたアクシデントの影響で脳に障害が残り、「高次脳機能障害」を発症するケースがあります。

近年「発達障害」という言葉は耳にすることが増えてきたと思いますが、「高次脳機能障害」という言葉はあまり知られていないかもしれません。

症状からは発達障害と高次脳機能障害は区別しにくいといわれています。しかし、高次脳機能障害はどのお子さんにも起こりうる障害です。

障害について正しく理解していただき、障害の有無に関わらず、お互いが協力し合える社会になればと思います。

目次

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高次脳機能と障害について

まず始めに高次脳機能についてご説明します。

人間の脳には大きく分けて3つの機能があります。

①呼吸や循環などの「生きていくために欠かせない機能」
②知的能力、運動能力、視覚、聴覚などの「基本的な機能」
③知識に基づいて行動を計画し実行する「高度な機能」

この③の機能を『高次脳機能』と呼んでいます。

高次脳機能障害とは?

日本小児神経学会によると、高次脳機能障害とは事故や病気などで脳が損傷を受けたことによる後遺症のことをいいます。

記憶・注意・思考・行為・空間認知などの『高次脳機能』に障害が起きると、緻密な情報処理がうまくいかなくなり、日常生活や社会生活に問題が生じてしまいます。

高次脳機能障害は、目に見えにくくわかりにくい障害といわれています。

高次脳機能障害になる原因

高次能機能障害になる原因は以下の通りです。

・急性脳炎
・髄膜炎
・頭部外傷(脳挫傷、硬膜外血腫、硬膜下血腫、脳内血腫、外傷性クモ幕か血腫、びまん性軸索損傷など)
・低酸素脳症
・脳血管障害(脳梗塞、脳出血、脳動静脈奇形、もやもや病など)
・ウイルス性脳炎
・脳腫瘍

子どもの場合は特に、急性脳炎・脳症が最も多く、低酸素性脳症、脳外傷、脳血管障害、脳腫瘍などが挙げられます。

主な症状

脳損傷の原因や程度により症状には個人差がありますが、「怒りっぽくなった」「落ち着きがない」「甘えがひどくなった」「すぐに忘れる」など今までに見られなかった症状が生じることがあります。

具体的には『注意障害』『記憶障害』『遂行機能障害』『社会的行動障害』などがあります。

見た目では、発達障害と高次脳機能障害の区別は難しく、小児の高次脳機能障害は発達障害と同様に「外見上わかりにくい」「境界がわかりにくい」「変化する可能性がある」などの特徴があります。

高次脳機能障害の主な症状

診断の流れ

高次脳機能障害の診断は、医師によって2004年2月に厚生労働省より出された下記の基準によって行われます。

①主要症状など

1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。

※器質的病変とは、脳が損傷を受けた結果、不具合が生じている状態であること。

②検査所見

MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。

③除外項目

1.脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有する
が上記主要症状(①-2)を欠く者は除外する。
2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。

④診断

1.①〜③をすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。

検査の方法

⾼次脳機能障害の主な検査は、画像検査、神経心理学的検査(心理検査)、発達検査です。⼦どもで⾏える⼼理検査は限られていますが、専⾨の病院では、⼦どもの症状に合わせてある程度の検査を⾏っていきます。

しかし⾼次脳機能障害の診断で最も⼤切なのは、⽇常⽣活や学校⽣活のなかで、⼦どもにどういう問題が⽣じているのか、よく観察して⾒つけ出すことです。

高次脳機能障害と発達障害の違い

医学的には、高次脳機能障害は、発症原因を明確に規定しています。つまり、事故や病気などによる後天的な脳損傷が原因の「中途障害」です。

一方の発達障害は、生まれつきの脳機能の障害が原因で生じると考えられているため、原因を特定せず、幼少期に発症し、自閉症スペクトラム症、注意欠如・多動症といった症状を重視しています。

法制度において、2004年2月の「高次脳機能障害」の診断基準の発表後、2005年4月1日より発達障害者支援法が施行されています。

法制度的には、小児の高次脳機能障害は発達障害の中に含まれていますが、高次脳機能障害の判断基準からは発達障害は除外されているという紛らわしい実情があります。

高次脳機能障害のリハビリテーション

発達の段階に合わせて障害が起きた機能に直接働きかけたり、代償機能の獲得を目的に行ったりしています。

また、お子さんだけでなく親御さんにも障害の理解を促していく必要があります。高次脳機能障害の場合は先天性の場合と異なり、発症する前のお子さんの記憶が親御さんの中にはあります。

その結果、発症前後でお子さんを比較することができ、発症後は今までできていたことが難しくなるため、その現実を受けとめられるようになるまでに時間を要す方が多いです。

お子さんがより生活しやすい環境を作っていくために、障害を正しく理解し、どのような環境、対応が必要なのか検討していかなければなりません。

小児の高次脳機能障害_親

高次脳機能障害は完治するのか

受傷・発症から2~3年は回復に向かい、臨床症状や検査結果に改善が見られますが、その後検査結果などに大きな変化は見られなくなります。

しかし、日常生活で困る症状に対して環境との関わり方を変え、適切な行動を可能にする「代償スキル」を獲得できれば、高次脳機能障害はよくなったということになります。

代償スキルを獲得するためには?

代償スキルを獲得するには、まず自己の機能に関して現実的に受け入れ、健全に残っている能力を自覚し日常生活をこなす能力につなげることができればよいのですが、中学生あるいは高校生ぐらいにならないと難しい面もあります。

このため、発達の頃合を見ながらその年齢にあった支援をしていくことが必要になります。また、記憶障害などのため二次的な学習障害に陥り、知的発達が追いついていかないような事態はできるだけ避けたいものです。

まずは、学校生活に適応できるよう、家庭や学校などでの理解と援助(環境調整)が重要です。このように子どもの場合には、発達の影響を受けること、学校生活に適応することが目標になることなど、大人と違った視点と支援が必要になります。

困ったときは…

病気やケガで入院していた病院、あるいは、お住まいの市区町村の児童相談所、教育相談所、保健所などの窓口に相談してみて下さい。

高次脳機能障害は、症状によって各種障害者手帳(身体障碍・知的障害・精神障害)の取得や福祉サービスを利用することができます。

また、学校においては特別支援教育の教育的支援を受けることもできます。

 

【参考資料】
橋本圭司 「特集 小児リハビリテーション―その歴史と各疾患への対応、未来への展望について
5.高次脳機能障害のリハビリテーション」Jpn Rehabil Med Vol.53 No.5 2016

千葉県千葉リハビリテーションセンター「改訂版 小・中・高校生のための高次脳機能障害支援ガイド」

東京都心身障碍者福祉センター「頭の病気(急性脳症。低酸素脳症・脳腫瘍など)けが(交通事故・転落・脳しんとう)などによる後遺症」

 

イラスト:小林まぐろ

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