
1999年 日本医科大学産婦人科教室入局
日本医科大学付属病院
産婦人科研修医
2001年 国立横須賀病院
(現 横須賀市立うわまち病院)
産婦人科
2002年 東京都保健医療公社
東部地域病院 婦人科
2003年 日本医科大学付属病院
女性診療科・産科 助手代理
2004年 日本医科大学付属第二病院
女性診療科・産科 助手
現在は石野医院の副院長
専門は漢方(東洋医学)、産婦人科
患者さん一人ひとりに合った薬を作るため、自由にさじ加減ができる煎じ薬を第一と考える。
診療では一人ひとり丁寧に症状の診断を行い、情報の発信を行う。
『エストリオール』は女性ホルモンの一種で、ホルモン補充療法の薬として使用されます。
ホルモン補充療法と聞くと、体調に影響があるのでは?副作用が強いのでは?と、なんとなく怖いイメージがあるかもしれません。
今回は、エストリオールのはたらきと、気になる副作用について解説します。
女性ホルモンの一種『エストリオール』とは?
1.女性ホルモンは大きく分けて2種類ある
女性ホルモンは大きく分けて、卵胞ホルモン『エストロゲン』と、黄体ホルモン『プロゲステロン』の2種類です。
エストロゲン
排卵前に卵子を成熟させる卵胞から分泌されるホルモンです。子宮内膜を厚くし、女性らしい身体をつくるはたらきがあります。
プロゲステロン
排卵後に卵子が出ていった卵胞から分泌されます。子宮内膜をやわらかくして受精卵を着床しやすくし、妊娠を助けるはたらきがあります。
2.エストリオールはエストロゲンの一種
エストロゲンは卵巣と胎盤で産生され、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)エストロール(E4)に大別されます。活性が最も高いのがE2のため、妊娠していないときの卵巣のはたらきを見る指標は血中E2を、妊娠しているときの胎盤のはたらきを見る指標としては尿中E3を測定します。
エストラジオール(E2)
エストラジオールはおもに卵巣でつくられ、エストロゲンの中で最も強くはたらきます。
更年期にはエストロゲンが急激に減少するため、閉経後はエストラジオールの数値も急激に減少します。
エストロン(E1)
『エストロン』のはたらきの強さは、エストラジオールの半分程度です。
エストロンのほとんどが卵巣でエストラジオールに変換されはたらきを活性化させますが、閉経後は変換されなくなるので、分泌の割合が高くなります。
エストロンの分泌される割合が高くなりすぎると、乳腺や子宮の組織に刺激を与えるため、乳がんや子宮体(子宮内膜)がんにかかるリスクが上がります。
エストリオール(E3)
尿中エストロゲンの90%を占めており、胎児・胎盤系機能を評価する指標として、臨床上では最も多く測定されています。エストリオール高値の場合には双児や巨大児の可能性があります。
低値の場合には、胎児死亡、胎児仮死、無脳児、先天性副腎発育不全症、胎児発育遅延、腎障害、肝障害、副腎皮質ホルモン大量投与、妊娠中毒症、胎盤酵素欠損症(特にサルファターゼ欠損症)などのおそれがあります。
・エストリオールのはたらきは最も弱い
エストリオール(E3)のはたらきは3種類の中で最も弱く、「エストラジオール(E2)」の1/10程度といわれています。
エストリオールは、エストラジオールとエストロンが肝臓で変換されてつくられます。
・妊娠とエストリオール(E3)のかかわり
妊娠中はエストリオールの血中濃度によって、胎児の状態を確認することができます。さらに尿中濃度でも、胎児の健康状態や、胎盤がうまく機能しているかがわかります。
その理由は、妊娠中にエストリオールがつくられる過程にあります。妊娠していると、エストリオールは胎児の副腎を通ったのちに胎盤でつくられます。
そのため、エストリオールは健康状態や胎盤の機能をはかる目安になるのです。
・妊娠中にエストリオールが高くなる場合と低くなる場合
双子以上の妊娠や赤ちゃんが大きい場合などに母体の甲状腺機能が低下すると、エストリオールは高い数値を示します。
いっぽう、胎児の発育不良時や胎児死亡時、母体の甲状腺機能亢進(こうしん)、肝障害、腎障害の場合には、低い数値を示します。
3.エストリオールと病気との関係
『エストリオール』は、エストロゲンとしてのはたらきは強くありませんが、他の2種類より乳腺や子宮への刺激が弱いことから、乳がんや子宮体がんを誘発しにくいと考えられています。
閉経後、「エストロン」の分泌の割合が高くなりすぎると、乳がんや子宮体(子宮内膜)がんのリスクが上がってしまいます。
しかし、『エストリオール』が「エストロン」の割合が高まりすぎるのを防いでくれるといわれています。
ホルモン剤としてのエストリオール
1.どんなときに処方される?
更年期障害
エストリオールは、おもに更年期障害の治療に用いられます。
更年期障害とは、閉経前の急激な女性ホルモンの低下に身体が対応できなくなる病気です。症状としては、のぼせや頭痛、めまいなど、多くの不快を感じます。
これらの症状をやわらげるため、閉経前後にホルモンを補う治療がおこなわれます。
その他、病気の治療
エストリオールは、『老人性骨粗鬆症(こつそしょうしょう)』や『膣炎』、『子宮頸管炎』といった病気の治療にも使用されます。
2.エストリオールの効果について
古くから『ホルモン補充療法』に活用
エストリオールは、子宮や乳房への刺激が少なく、おだやかにはたらきます。
そのため、ヨーロッパでは古くから『ホルモン補充療法』に用いられてきました。『ホルモン補充療法』とは、体内で不足した女性ホルモン(エストロゲン)を補充する療法です。
膣を健康な状態に保つ効果も
エストリオールは、ほかの2つのホルモンに比べて、膣粘膜の状態をよくすることがわかっています。
エストロゲン不足によって低下した膣の『自浄作用』を回復させ、炎症を抑えて抵抗力を高めます。
3.エストリオールの副作用は?
副作用は少ない!まれに乳房の張りや不正出血など
ホルモン製剤の中では副作用が少ないといえます。しかし、まれに『乳房の張り』や『不正出血』、『吐き気』などがみられます。
これらの症状は2か月から3か月くらい投与を続け、身体が慣れてくれば軽くなることが多いでしょう。
ごくまれに、血栓症をおこすことも
ごくまれに血液が固まり、血管の中に血のかたまりができる『血栓症』をおこすことがあります。
下半身や胸の痛み、息切れ、めまいをおこした場合はすぐに病院を受診しましょう。
4. エストリオールを使用してはいけない場合
以下の場合はエストリオールの使用が禁止されています。
・エストロゲンの影響を受ける乳がん、子宮体がんの場合
・妊娠、または妊娠している可能性がある場合
・診断の確定していない異常性器出血がある場合
(子宮体がんの可能性があるため)
・血栓性静脈炎、肺塞栓症の患者、または既往歴がある場合
(血栓ができやすくなる可能性があるため)
5.エストリオールの使用をひかえたほうがよい場合
まったく禁止されているわけではありませんが、成長期のお子さんや高齢の方、糖尿病患者の方への投与は、経過をよく観察しながらおこないます。
小児は、骨が成長するための軟骨である「骨端」が閉じてしまう、性的に早熟してしまう、などのおそれがあるためです。
高齢者は生理の機能が低下しています。糖尿病の方は症状が悪化する可能性があるため、どちらも使用をひかえてください。
また、乳がんにかかった親族が多い場合は、定期的に乳房検診をおこなう必要があります。
まとめ
エストリオールは、飲み始めは副作用が強く出ることもありますが、しだいに治まってくることがほとんどです。
副作用が出たからといって、自己判断で飲むのをやめるのは避けましょう。
どうしてもつらい場合や気になる症状が出た場合は、早めに医師に相談することが大切です。
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