ドメスティック・バイオレンス(DV)から逃げられないのはなぜか?

DV
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杉山教授写真1

監修者

杉山崇 教授

神奈川大学人間科学部 教授
心理相談センター 所長
臨床心理士(公益法人認定)
1級キャリアコンサルティング技能士(国家認定)

学習院大学大学院修了
精神科、教育、福祉、産業など各領域の心理職を経て日本学術振興会特別研究員に。
神経(脳)活動・心理過程・社会的関係の相互作用を考慮したうつ病研究を行う。
「心理学で幸せを増やす」をテーマに教育研究および心理・キャリア相談に従事する一方でテレビや雑誌などメディアを通じた啓発活動の実績も多数。

2001年に超党派の女性議員による議員立法で成立したのが、通称ドメスティック・バイオレンス(以下、DV)防止法「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」です。

2004年には精神的暴力、元配偶者の被害も対象として、2007年には脅迫や無言電話など心理的に負担をかける行為も対象となりました。

さらに2013年には同居する交際相手からの被害も対象とするなど、被害者の保護を目指して改定が続いています。

法律は充実して、DV被害は減ったのか?

ただ、法律が充実する一方でDVが減っているわけではなさそうなデータがあります。警察庁の発表によると2017年のDV検挙件数は8342件で、過去5年間で最多でした。加害者男性が82.7%(2017年)と女性が被害者になりやすい傾向も続いています。

また、せっかく法律が充実しても、当事者である女性たちが夫のDVから逃げようとしないことも被害を大きくする問題の一つです。さらに子どもがいる場合はDVを目撃することによって子どもの心理発達にも深刻な影響があります。

2004年改定の「児童虐待防止法」によると子どもにDVを目撃させることも虐待の一つで、子どもの被害ともいえます。母親がDV夫から逃げない限り、子どもも被害にあい続けるのです――。

DV_法律

被害女性たちはなぜDV夫から逃げないのでしょうか。そして、子どもにはどんな影響を与えるのでしょうか。

「負の強化」によって心を縛られてしまう

被害女性たちが夫のDVに苦しみながらも逃げられないのは、心理学で言う「負の強化」によって心を縛られているからです。

負の強化とは、人の心を強力に縛る仕組みとして心理学では古くから研究されています。簡単に説明すると、強烈な恐怖を与えられている状況では、ちょっとでも恐怖が軽減する体験をするとそれが癖になってしまうという現象です。

例えば、夫が怒り出して強い恐怖を体験している時に、従順な態度を取ると夫が少し穏やかになったとします。客観的に見れば一時的に恐怖から開放されたに過ぎません。ですが、恐怖は非常にストレスフルな感情で、私たちの心を削り取るだけでなくストレスホルモンの働きで身体も削り取るのです。

この苦痛が激しいあまり、わずかな恐怖の軽減が大きな価値あるもののように思えてしまいます。結果的に「自分が従順な態度を取れば、最悪な恐怖状態から開放される」という学習が起こります。

この状態は恐怖にさらされるリスク下に置かれていることは変わらないので何も良くなっていません。ただ本人は最悪の恐怖状態からは開放されているわけで、従順な態度を続ける必要性を感じてしまうのです。

さらに従順な態度をやめると再び最悪の恐怖状態に引き戻されるという2次的な恐怖もともない、従順な態度をやめられなくなるのです。

DV_負の強化

夫のDVから逃げにくい心理を理解することが第1歩

DV被害者の女性が負の強化で心が縛られた状態は、言い換えれば恐怖も救済も夫に与えられている状態と言えます。DVを行う夫の中には機嫌がいいときは優しく妻を気遣う場合もあるようです。こうなるとますます夫の存在に救われてしまうので、夫から離れられなくなります。

特に夫以外の外のコミュニティと疎遠だと、「仮にDVがあっても相談できる相手がいない」「夫のDVが非常識という価値観を共有できる相手がいない」「夫以上に安心感を与えてくれる人がいない」などの理由で夫から離れられなくなります。DVも怖いけど、離れることも怖い…という心理をよく理解して、被害者を支援することが重要です。

大事なことは夫以上の安心感を実感してもらうことで、夫との関係を見直そうという気持ちを持ってもらうことです。人は自分を理解してくれる人に安心感を持つので、被害者の複雑な心中を察して関わることが重要です。

DV_理解

DVを見せられる虐待で子どもはどうなるの?

子どもは大人の行動をモデリングするので、「子は親の鏡」といわれています。暴力を振るう父親に同一化すれば、将来的にDVの加害者に、母親に同一化すればDVの被害者になる可能性があります。

ただ、すべての子どもがそうなるわけではなく、成長して見識が広がる中で「自分の家庭で起こっていたことは普通じゃなかった…」と気づき、悩みながらも新しい同一化の対象を見つけて加害者にも被害者にもならない人もカウンセリングの中では見受けられます。

ただ、大切な脳の発育期に暴力的な環境に置かれることで、脳の危険をモニタリングする部分が敏感に育つ可能性があります。この部分が敏感すぎると、些細なことで危険を感じて脳が“非常事態信号”を出しやすくなります。

このことがメンタルヘルスを脅かすリスクになりやすいので、子どもはいち早くこのような家庭環境から保護する必要があります。

DV_子ども

DVを本当になくすために

DV防止法は、DVの被害者を救済するためには必要ですが、DVを根絶するためには男女関係が持つリスクと対策についてのリテラシー教育が重要です。

現状では思春期に差し掛かり男女関係に興味を持つ年代への性教育を行っていますが、男女関係で陥りやすいDVの加害者になる心理、被害者の心理も教育する必要があるでしょう。

まずはいま苦しんでいる被害者を救う必要がありますが、将来の被害者を根絶するための手立ても社会を挙げて議論するべきだと思われます。

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