「『療育』を看板に掲げれば、ビジネス的には儲かるんです。でも、アイムの放課後デイでは、それをしません。療育もしていないんです。アイムで大切にしていることは、『楽しさを追求すること』です」
笑顔でそう話すのは、『療育なんかいらない』(小学館)の著者で株式会社アイム代表の佐藤典雅氏です。
佐藤氏は、自身の息子が自閉症だったことから、自閉症に対する受け皿をつくりたいと考え、2015年に発達障害児のための放課後デイサービスを始めました。
2018年8月現在、アイムが運営する放課後デイサービスは4箇所あり、高校卒業証書を取得できる通信制サポート校やグループホーム、就労支援を目的とした生活介護も運営しています。
大人が楽しめる空間は、子どもたちも楽しめる
「アイムのデイサービスを見学に来る保護者たちは、あちらこちらのデイサービスを見学してからうちに来るのですが、保護者たちがとても驚くことがあります。それは、見学に来たその日から、自閉症の我が子が楽しそうに遊んでいることです。保護者からは『初めて子どもから“行くのが楽しい”という言葉を聞いた』という声が多く寄せられます」
外に行くことを怖がったり、新しい環境になじむのが難しかったりする自閉症の子どもたちが、なぜ「アイムに行くのが楽しい」と言うようになるのでしょうか。
中には、不登校だった子どもが、アイムに通い始めてから学校にも行けるようになったという事例もあるとのことです。その変化には、アイムならではの取り組みがありました。
「アイムでは、『空間』にこだわっています。まずは大人がワクワクする空間をつくることを重視しています。大人が楽しめるインテリアや遊び道具を選べば、子どもも楽しく毎日を過ごすことができます」
子どもたちが楽しめる空間が魅力
アイムのデイサービスは、「かながわ福祉サービス大賞」を2年連続で受賞しています。直近の2017年は、どのようなところが評価されての受賞となったのでしょうか。
「2017年は、『保護者が創る福祉』というテーマで受賞しています。アイムでは、『空間』のほかに『人』にもこだわりがあり、スタッフの約半数が生徒の保護者です。発達障害の子どもを育てている当事者が、当事者目線で運営に参加するので、子どもたちにとってより良い環境をつくることができています」
【写真】佐藤氏(右から2番目)とスタッフのメンバー
親子ともに前向きな変化が…
「スタッフの約半数が生徒の保護者」ということからも、運営側と保護者との連携が密接である様子が伝わってきます。今回の取材では、アイムの生徒の保護者の1人でおられる伏木さんにもお話を伺いました。伏木さんには、広汎性発達障害の息子さんがいます。
以前は東京に住んでいましたが、「発達障害児のためのデイサービスが少なく、毎日預けられない」とか「支援学級が少ない」という悩みをお持ちでした。どのようなきっかけで、息子さんをアイムのデイサービスに通わせることになったのでしょうか。
【写真】アイムを利用する保護者の1人である伏木さん
「アイムを知ったきっかけは、佐藤さんのご著書『療育なんかいらない』を読んだことです。本を読んでからアイムに見学に行って、『ここだ!』と思いました。息子をアイムに通わせるために、東京から川崎に引っ越すことを決意しました」
伏木さんのご家族は、東京から川崎に引っ越しをし、息子をアイムのデイサービスに通わせるようになってから、親子ともに変化があったそうです。
それぞれ、どのような変化があったのでしょうか。まずは、息子さんについてです。
「学校が終わってからデイサービスに行き、学校の授業の後にさらに療育のプログラムをこなすのは、息子にとって辛いことです。でも、アイムでは、のびのびと好きなことをできるので、とても楽しそうです。そして、週に5日間デイに行って親と離れることで、息子が積極的に外出ができるようになりました。これは、とても大きな変化です」
お母さんである伏木さんご自身には、どのような変化があったのでしょうか。
「それまで、福祉関係の施設というのはどの施設も暗い印象がありましたが、アイムのデイサービスは、明るくておしゃれで、『可哀想な感じ』がないんです。子どもを預けている間もこの子だけ可哀想だという罪悪感がありません。それで、私も夕方5時まで安心して子どもを預けていられます。自分の時間を楽しんだり、『おいしいお料理を作ろう』という気持ちにもなれるんです。アイムのスタッフが保護者の相談相手の役割を果たしていることもあり、親の側にゆとりができました」
今回、地元の自治体からも表彰されているアイムのデイサービスを取材しましたが、取材の最後に代表の佐藤氏から子育てについての持論を伺いました。
「子育てをする上で、それが本当に子どものためなのか、それとも親の都合を押しつけているのか、という点を考えた方がよいと思っています。親自身が常識や世間体に縛られていると、親も子も苦しくなるからです。子どもを親の所有物として扱うのではなく、『ひとつの人格』として認めているかどうか、という視点を持つことが大切です。
それから、子育てにおいては、お父さんの役割が重要です。日本はお国柄の影響もあり、『母性が強くて、お父さんの権限が弱い』という傾向があります。お父さんには、家庭で問題が起きたら放置したり、後回しにしたりせず、家族のために動いてほしいと思っています」
佐藤氏は、子育てについて「子どもに障害があってもなくても原則は一緒だと思います。親が広い視野を持っているかどうかが大切」とも話していました。
今回の取材では、目を輝かせて好きなことに熱中している子どもたちの姿も印象的でした。今後は子どもたちの成長に合わせて、グループホームと就労支援に力を入れていくとのことです。取材にご協力くださった佐藤さん、伏木さん、ありがとうございました。
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