
北総合病院 初期・後期研修医(一般外科コース)
国立国際医療研究センター病院 乳腺内分泌外科 フェロー
2018年より現クリニック勤務
乳がんとは、乳房の中にある乳腺にできるがんです。乳がんにかかる女性は年々増加しており、2015年の「データに基づくがんに罹患する確率」によると、日本人女性の10人に1人が乳がんを発症しています。
乳がんを発症する年代でもっとも多いのが、40代以降といわれています。ただし20代や30代の女性でも乳がんを発症する可能性はゼロではありません。
乳がんは、日本女性の中でもっとも罹患率の高い悪性腫瘍ですが、早期に発見すればさまざまな治療の選択肢があります。
この記事では、乳がんを早期に発見するための検査について、詳しく解説します。
乳がんの検査を受けるべき人・症状は?
1.どんな症状があれば受けるべき?
自分で乳房を触ってみてしこりがある、乳頭から血が混じった分泌物がある、腕を上げたときに、乳腺に引きつれる感じがあるなど、気になることがあればすぐに病院を受診してください。
2.検査を受けるペースは?
40歳以上の方は、症状がないとしても定期的に検査を受けましょう。40歳以上であれば2年に1回、行政からの案内で乳がん検診を受けることができます。
お住いの地域によって、生まれ年が偶数年の人を対象としていたり、昨年受けていない人を対象としていたり、さまざまです。まずはお住いの地域のがん検診について調べてみましょう。
乳がんの検査について
乳がんの検査は主に、視診、触診、超音波検査、マンモグラフィー検査があります。
それぞれについて、下記で解説します。
1.視診、触診
手で乳房に触れたり、マッサージするように押したりしながら、乳房の中にしこりがないか、変に硬いところがないか、周りのリンパ節が腫れていないかを調べます。
また、乳頭から分泌物がないかを診たり、乳房の左右差がないかを観察します。
触診で発見できるものは、ある程度の大きさになったしこりです。小さいものは触診ではわからないこともあり、見逃してしまう可能性もあります。
2.超音波検査
超音波ビームが出る「プローブ」と呼ばれるセンサーを乳房にあて、はね返ってくる音波を画像化して診断する検査です。妊娠したときに赤ちゃんの画像を出すものと原理は同じです。
超音波では乳腺は白と黒のまだら状態に映し出され、乳首に向かってなだらかな山型になっています。
その中に黒い塊としてしこりの影が見えたり、普段はなだらかなところが引きつれているなどの変化を観察しています。
3.マンモグラフィー検査
マンモグラフィーは、乳房専用のレントゲン検査です。透明の圧迫版で乳房をはさみ、薄くのばして撮影します。乳房全体を1枚の写真におさめることができ、石灰化と呼ばれる、カルシウムが沈着した粒を映し出す能力に長けています。しこり状になった病変も、ものによっては白い塊として確認することができます。
ただ、40歳未満の女性は乳腺が発達しているため、乳腺全体が白く濃く映ってしまいます。(高濃度乳腺や不均一高濃度乳腺などと呼ばれることがある)この場合、その中にしこりがあったとしても、しこりも白のためとても見にくく、はっきりとらえることが難しいことがあります。
マンモグラフィー検査は痛い?
マンモグラフィー検査では、組織の重なりを少なくし、乳腺の状態をより鮮明に写すため、圧迫版で乳房をできるだけ薄くのばします。そのため、痛みはあります。しかしその痛みには個人差があり、ほとんど痛みを感じない方から、かなり痛みを感じる方までさまざまです。しかし痛みを感じる場合でも、いつまでも痛みが残ることはありません。
月経前の検査は避けて
特に月経前は乳房が張り、より強い痛みを感じることがあるため、痛みに不安のある方は月経前の検査を避けることをおすすめします。
4.超音波検査とマンモグラフィー検査、どっちが良いの?
超音波検査がおすすめの人
・40歳未満の女性
40歳未満の女性は乳腺が発達しているため、マンモグラフィー検査より超音波検査の方が有効といえます。
・妊娠中の方
妊娠中の方は逆に放射線被ばくの観点から、マンモグラフィー検査を受けることはできません。超音波検査を受けることは可能ですが、妊娠期から授乳期は特に乳腺が発達してしまうので、がん検診を行う時期としてはおすすめできません。
・高濃度乳腺の方・不均一高濃度乳腺の方
過去に高濃度乳腺あるいは不均一高濃度乳腺といわれたことがある方は超音波検査も合わせて行う方がよいです。
マンモグラフィーでは、乳腺密度が濃いと、がんがわかりにくくなります。30代~40代の閉経前の方に多くみられます。
マンモグラフィー検査がおすすめの人
・40歳以上の女性
閉経が近い女性、あるいは閉経後の女性は乳腺が委縮するため病変を見つけやすくなります。
・乳房が大きく、深部まで超音波が届かない人
圧迫版で両側から乳腺の状態を写すため、超音波では確認できない深部まで検査をすることができます。
・乳房に脂肪が多い人
圧迫版で両側から乳腺の状態を写すため、乳房全体が観察でき、乳腺の深部まで映すことができます。
5.どちらも受ける人はいる?
自覚症状がある方や、年齢的にしっかり検査しておきたい方など理由は人それぞれですが、マンモグラフィーと超音波検査をどちらも受ける人もいます。
病院での検査費用と、結果が出るまでの期間
1.何科にかかればいい?
乳房にしこりがある、血液の混じった分泌物がある、などの症状がすでに出ている場合には乳腺科、乳腺外科、外科を受診してください。特に症状がなく、健康診断ないしがん検診として受けたい場合には健診センターや人間ドックになります。
2.費用について
年齢や検査の内容、また自治体の検診なのか、個人的に病院で受診するのかでも費用はかなり異なります。
乳がん検査におけるおおよその費用の目安
・自治体からのがん検診
無料~数百円(高くても数千円というところがほとんど)
・マンモグラフィー検査
4000円~8000円
・超音波検査
3000円~6000円
・マンモグラフィー検査と超音波検査
7000円~12000円
個人的に病院で受診した場合、診察代もプラスされます。
3.保険は適用される?
厚生労働省では、40歳以上の女性に2年に1度、マンモグラフィー検査を受けることを推奨しており、市町村などの自治体で乳がん検診が行われています。費用負担は無料から3000円ほどです。
40歳未満は全額自己負担の可能性も
自治体によっては30代に超音波検診をしているところもありますが、それがない場合は全額自己負担になる可能性があります。
自分または夫の勤務する企業の健康保険組合制度に従っての受診も可能ですが、その場合でも一部、あるいは全額自己負担になる可能性もあります。
自覚症状があり受診した場合は、保険が適用される
何らかの自覚症状があり、受診している場合は、がん検診やドック検診とは扱いが異なり、通常の診察となるため保険が適用されます。
4.結果が出るまでの期間はどれくらい?
健康診断における検査
医療機関外で受診する、健康診断において検査を行った場合には、結果の通知が届くまでに2週間から4週間かかります。
乳腺外科などで受ける検査
乳腺外科などで検査を行った場合には、早くて当日~5日で結果が出ます。
乳がんの精密検査について
画像検査で何らかの病気が疑われる場合、さらに詳しい検査を行います。
2種類の検査とも、結果が出るまでに5日~14日ほどの期間を要します。
1.穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)
細胞診です。採血するときくらいの太さの針を直接、病変に刺し、注射器で吸引します。こうすることで、針の先端に病変の細胞の一部が付着します。これを顕微鏡の検査にまわします。細い針を使用するため、一般的には局所麻酔を使用せずに行います。
特徴
・針が細いので麻酔は必要ありません。
・刺した部分からの出血で、血の塊ができることがあります。(内出血)
・患者さんの体の負担が少ない検査です
・とれた細胞の量が少ないと判定ができないことがあります
・診断を確定するのが難しいといえます。
2.針生検(はりせいけん)
針生検は、ボールペンの芯くらいの太さの針を使って行います。局所麻酔をしてから、病変部に刺し、その中の組織の一部を切り取り、診断する方法です。針が太いので局所麻酔をしてから行います。
特徴
・局所麻酔が必要
・刺した部分からの出血により血の塊ができることがある。(いったん内出血になって数日で吸収されます)
・穿刺吸引細胞診よりは、患者さんの体への負担が大きい
・入院の必要はない
・穿刺吸引細胞診と比べて、とれる組織の量が多いため、正確な診断が可能
まとめ
乳がんの検査について、おわかりいただけたでしょうか。
日本対がん協会によると、乳がんが2センチ以下のしこりで、リンパ節への転移がない状態(乳がんの進行度でいうと1期-早期がん)で見つかれば、約90パーセントの人が再発することなく治療後も生活できている、という結果が出ています。
乳がんを早期に発見するためには、定期的なセルフチェックの実施と、定期検診の受診がとても重要です。自分の住んでる地域のがん検診のシステムや、加入している保険で受けられるドック検診には何があるかなど、この機会に確認して、有効に利用しましょう。
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