
2006年 北里大学大学院卒
2008年 平塚共済病院内科医長を経て小田原銀座クリニックに入職、その後院長に就任
2013年 12月には当院久野銀座クリニックを開業
早期発見、早期治療を心がけ、健康で心豊かな人生を歩んでいただくことを願っており、内科・消化器内科を中心に幅広い情報の発信に努める。
『脳膿瘍(のうのうよう)』は、体内で最も重要な機関である『脳』に炎症を起こす病気です。この記事では、脳膿瘍とはどんな病気か、原因や治療法について解説します。
脳膿瘍について
1.脳膿瘍とは?どんな病気?
脳に細菌が感染し、膿がたまる
『脳膿腫』とは、脳に細菌が感染し、膿がたまる病気です。
本来、細菌のいるはずがない『脳実質』という脳の内部に菌が感染し、化膿性の炎症が起こって、膿がたまります。
技術が進歩し、死亡率の減少や早期発見が可能に
以前は診断が難しく、死亡率や後遺症の残る可能性も高い病気でした。しかし、今はCTやMRIが普及したことで、早期発見が可能になっています。また、抗生物質治療も進歩し、死亡率の減少へとつながっています。
2.脳膿瘍の原因について
耳鼻咽喉部の病気が原因になることが多い
脳膿瘍の原因は『副鼻腔炎』や『中耳炎』など、耳鼻咽喉部の病気から、脳へと細菌が感染することが多いです。
そのほか、さまざまな原因により発症する
それ以外の原因としては、『扁桃腺炎(へんとうせんえん)』や『虫歯』などの頭蓋骨周辺の炎症、肺の炎症、血液で細菌が運ばれる『心臓弁膜症』などが挙げられます。
そのほか、脳への外傷から細菌が侵入し、発症することもあります。また、発生する原因が分からないケースもあります。
脳に感染する細菌の種類は?
脳に感染する細菌は、『ブドウ球菌』や『連鎖状球菌』、『肺炎双球菌』、『インフルエンザ菌』など、さまざま種類があります。
3.脳膿瘍の症状について
主な症状は、発熱やけいれん、まひ、精神障害
脳膿瘍の症状は、脳のどの部分に膿ができるか、またその大きさによっても異なります。
主なものは、『発熱』や『けいれん』のほか、手足のしびれ、歩行や運動の障害、ろれつがまわらないなど、『神経機能の麻痺』『精神障害』です。
頭痛や嘔吐、吐き気を覚えることも
脳膿瘍によって、『頭蓋骨内圧亢進(ずがいこつないあつこうしん)症状』が起こることがあります。
頭蓋骨内圧亢進症状は、脳の入っている空間の『頭蓋腔』の圧力が高くなることで起こる症状のことです。
頭痛とともに、嘔吐や吐き気などの症状があらわれます。
脳腫瘍とも似ている!症状があらわれたら病院へ
脳膿瘍の症状は、脳腫瘍とも似ています。
自分でどちらか判断することは困難です。症状があらわれたら、早めに医療機関を受診しましょう。
脳膿瘍の治療法
1.脳膿瘍の検査
脳膿瘍の検査は、『CT』や『MRI』などによる画像診断をおこないます。
場合によっては、頭蓋骨に小さな穴を開けて、そこから膿をとることもあります。とった膿を培養し、診断を確定します。
2.脳膿瘍の治療法
〈内科的治療法〉
抗生物質で細菌の除去をおこなう
『抗生物質』を点滴し、細菌を殺します。
感染する細菌にはさまざまな種類があるため、それぞれに合った抗生物質を選択する必要があります。
頭蓋内の圧迫を軽減し、脳のむくみを取る
頭蓋内圧亢進が生じている場合は、『頭蓋内圧降下剤』という薬を投与し、頭蓋内の圧迫を軽減します。また、『副腎皮質ホルモン(ステロイド)』を用いて、脳のむくみを取り除きます。
〈外科的治療法〉
膿腫の部位や大きさにより、内科的治療が困難な場合や、内科的治療で改善がみられない場合に、外科的治療をおこないます。
ドレナージ術
『ドレナージ術』はたまった膿を、体外に排出する手術です。
頭蓋骨に小さな穴をあけて、膿腫まで細い管を通します。そして、その管から膿を排出します。
また、開頭によって実施することもあります。
膿腫摘出術
『膿腫摘出術』の場合は、まず脳を露出させるために、頭蓋骨を切ります。さらにその奥の脳を切開し、膿を吸引します。
3.脳膿瘍の治療期間について
抗生物質の投与から、効果までは時間がかかる
抗生物質を投与してから、効果が出るのにはやや時間がかかります。
その間は、『CT』や『MRI』を使って、抗生物質が作用しているかを確認します。
手術の回復時期は、さまざまな要因に左右される
それで改善がみられなければ、手術で取り除きます。
術後の回復時期は、本人の免疫力や膿腫の数など、さまざまな要因によって変わってきます。
生涯にわたって抗生物質を投与しつづけることも
免疫力の低下している人が、『トキソプラズマ原虫』やかびの仲間の『真菌』が原因で膿腫ができた場合は、抗生物質の投与を生涯にわたって続ける必要があります。
脳膿瘍の予後について
1.合併症について
脳膿瘍の手術時に、感染症を起こすことがあります。
また、神経を損傷し、脳の機能障害や『脳梗塞』を引き起こす可能性もあります。
2.後遺症について
手足にけいれんの症状が出る
脳膿瘍の後遺症として、手足に『けいれん』の症状が出ることがあります。
その場合は、抗けいれん薬を内服します。
高次脳機能障害から、さまざまな障害が生じることも
後遺症として『高次脳機能障害』が生じることもあります。高次脳機能障害が起こると、『記憶障害』や必要なことに注意を向けられなくなる『注意障害』、『麻痺』などが残る可能性があります。
まとめ
脳膿瘍は、診断や治療が遅くなることで、予後が悪化したり、後遺症が残ったりします。
体に異常を感じたら、早めに病院を受診しましょう。症状はさまざまで、発熱や頭痛など、かぜと似たものや、人格が変わる「精神障害」、「言語障害」などがあらわれます。
また、脳膿瘍を引き起こす原因となる、「副鼻腔炎」や「虫歯」などを放置せず、きちんと治療しておくことも大切です。
この記事は役にたちましたか?
- すごく
- いいね
- ふつう
- あまり
- ぜんぜん