リハビリで言語能力の回復を目指す!失語症の症状を改善させるには?【言語聴覚士コラム】

失語症
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執筆者

澤田久美子 先生

言語聴覚士

北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 言語聴覚療法学専攻

耳鼻咽喉科ののはなクリニック
横浜市立大学医学部付属市民総合医療センター 耳鼻咽喉科
東京慈恵会医科大学付属病院 耳鼻咽喉科
東京慈恵会医科大学付属第三病院 耳鼻咽喉科

こんにちは、言語聴覚士の澤田久美子です。

脳卒中による言語障害の代表的なものに「失語症」と「運動障害性構音障害」がありますが、今回は失語症についてお話したいと思います。

脳卒中発作のあと「話すことができない」「ろれつが回らない」など、言語障害が起こることがあるのは、よく知られています。

しかし、言語障害といっても一様ではありません。家族や友人など周囲の人は言語障害はみな同じものだと誤解している人が多く、患者さんが苦しい思いをしている場合が少なくないのです。

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失語症とは

失語症とは、大脳(たいていの人は左脳)の言葉に関する働きを司る言語中枢が、脳梗塞や脳出血などの脳卒中、けがなどによって損傷されたため、一度は正常に獲得された言語機能がうまく働かなくなる高次脳機能障害の一種です。

ですので、成人だけでなく言語を獲得した小児でも失語症を発症することがあります。

小児の高次脳機能障害

「高次脳機能障害」について詳しくは、下記の記事をご覧ください。

【関連記事】性格の変化に戸惑いも…小児の高次脳機能障害を正しく理解する【言語聴覚士コラム】

症状について

失語症になると「話す」ことだけでなく、聞く・読む・書くことに関する能力が低下しますが、脳(左脳)の傷ついた場所の違いによって、それらの障害の重なり方や程度は異なります。

失語症のある人が経験していることは「言葉が分からない国に放り出された状態」に例えられ、ある日突然、以下のような状態に置かれることとなります。

・他者が何かを言っていることは分かるが、内容が理解できない
・思っていることを言葉で表現できない
・文の意味は分かるが、声に出して読めない
・文字が書いてあることは分かるが、内容が分からない
・字が書けない

また、失語症の症状がある人は、右半身にまひを伴うことがあります。言語中枢は多くが左大脳半球にあることが多いため、脳に損傷が起きると、反対側の半身に影響が現れるためです。

失語症の原因

失語症は、大脳の言語中枢の損傷により起こります。言語中枢が損傷される原因の90%以上が、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳卒中です。他には、交通事故などによる頭部外傷や脳腫瘍などがあります。

失語症の好発年齢

2014年の厚生労働省「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」によると、失語症の発症年齢が一番高い年代は50代で全体の約4割を占めます。

また20~50代の働き盛りの時期に失語症を発症する方は6割以上に上るとも報告されています。

【参考資料】

検査・診断

失語症の原因の診断には、CT・MRIなどの脳画像診断が使用されます。脳の画像分析で脳の病変のある部分を特定することは、症状の裏付けをするのにも役立ちます。

失語症の症状を細かく分析する上で役立つのが、認知機能テストです。これらのテストは、神経心理学者や言語療法士によって実施されます。

例えば日本高次脳機能障害学会では、失語症の重症度やタイプを鑑別するための標準失語症検査SLTAを紹介しています。

この他、話す流暢さを6つの角度から分析するボストン失語症診断検査や言語機能を総合的に判定するWAB失語症検査など、さまざまな角度から失語症の症状を検査する方法があります。

失語症の症状

①話すことの障害

全く話すことができない場合から、日常会話は問題がなく複雑な会話は難しい場合まで、症状の程度が異なります。主な症状は以下です。

喚語(かんご)困難

何かを伝えたいのに、それが言葉になって出てこない状態で、失語症のもっとも目立つ症状のこと。

錯語(さくご)

意図とは異なる言葉を言ってしまう状態。

復唱障害

相手が言った言葉を復唱することが難しくなる状態。

ジャーゴン

わけの分からない発話、という意味。流暢に話しているものの、錯語や新造語が多すぎて意味が全く分からない発話になる状態。

②聞くことの障害

他人が話す言葉の音は聞こえていても、言葉の意味が理解できない状態。全く理解できない場合から、日常会話は問題なく複雑な会話や長文になると難しい場合まで症状の程度が異なります。

③読むことの障害

文字は見えているのに意味が理解できなかったり音読することができない、読み間違いである「錯読(さくどく)」などが起こる状態。

④書くことの障害

文字が思い出せない、書き誤る「錯書(さくしょ)」などが起こる状態。

⑤計算能力の低下

個人差はあるが、計算が難しくなる。

⑥その他

脳損傷をして間もない場合、多くの人に見られるのが「注意障害」「易疲労性」「保続」といった症状です。

注意障害は「一つのことに集中できない」「注意を向け続けることができない」といった状態で、食事をしていても手が止まってしまうなどの症状があります。

易疲労性は脳が疲れやすく、脳損傷をしていない人と比べると極端に短い時間で疲労状態に陥ります。保続は易疲労性による疲労が原因で起こり、同じ言葉や反応を繰り返す状態です。

失語症のタイプ分類

失語症にはいくつかの種類があり、分類方法も複数存在します。医師の説明などで使われることの多い主な種類は、脳の損傷部位により分類した以下の4つです。

・ブローカ失語(運動性失語)
・ウェルニッケ失語(感覚性失語)
・失名詞失語
・全失語

実際には明確に分類できない場合や、経過とともに種類が変化する場合もあります。

①ブローカ失語(運動性失語)

言語中枢は「ブローカ野(や)」と「ウェルニッケ野(や)」の2ヶ所に分かれて存在します。ブローカ野が損傷された場合がブローカ失語で、聞く能力よりも話す能力の低下が著しい傾向にあります。書く能力では、漢字よりひらがなの理解が難しくなります。

ブローカ野は手足を動かす運動野と近い位置にあるため、ほとんどの場合、右半身まひを伴います。

②ウェルニッケ失語(感覚性失語)

ウェルニッケ野が損傷された場合で、話す能力よりも聞く能力が低下します。話し方は流暢ですが、つじつまの合わない発話だったり、錯語(さくご)を交えて一方的に話したりするため、認知症や精神疾患と誤解されやすい種類の失語症です。

ウェルニッケ野の位置は運動野から遠いため、体のまひを伴うことはほとんどありません。

③失名詞失語

発話は流暢ですが、名詞の喚語困難が目立つ状態です。喚語困難は、言語中枢のいずれの部位が損傷を受けても起こりうる症状です。

比較的軽度の失語症であり、日常会話には支障がない場合もあります。多くの場合、体のまひは伴いません。

④全失語

言語中枢が広範囲にわたり損傷を受けた場合で、もっとも重度の失語症です。全く話すことができない状態や、限られた同じ単語のみを繰り返す「残語(ざんご)」しか話せない状態が多くみられます。

聞く能力の低下の程度には個人差がありますが、読み書きはほとんどできないことが多いようです。多くの場合、右半身まひを伴います。

失語症のリハビリテーション

日本脳卒中学会のガイドラインによると、失語症の回復に言語聴覚療法が有効であり、早期に集中的に行うほど効果が高いことが指摘されています。失語症の原因となった疾患や怪我の症状が落ちついた頃に開始されます。

そして、失語症のリハビリテーションは、私たち言語聴覚士が行います。

言語聴覚士

「言語聴覚士」について詳しく知りたい方は、下記の記事をご覧ください。

【関連記事】言語聴覚士とは?患者さんの“自分らしさ”を支援する仕事

リハビリの目的と目標

失語症のリハビリの目的は、言語機能を完全に元の状態に戻すことではなく、可能な限りの言語障害の改善と、残存する言語機能を生かす方法を学ぶことです。

そして、リハビリによって、失語症の方が元の生活レベルに近づき、積極的に生活を送れるようにすることが目標です。

症状の改善を図る「刺激法」

症状の改善を目的とした練習のひとつに、刺激法があります。

刺激法は、失語症のある人に言葉や文字を示して脳に適切な刺激を与え、「文字を指差す」「うなずく」など何らかの反応を引き出します。この繰り返しにより、脳が言語を操作するプロセス全体を活性化することを目的としています。

失語症の種類や症状の程度により、言語リハビリテーションの進め方は異なります。

残された言語機能の活用は、「刺激を与える」「反応を引き出す」という練習を繰り返しながら、より効率のよいコミュニケーションの方法を患者さんが身につけられるように指導します。

しかし、刺激と反応の繰り返しだけでは、患者さんの方から何かを伝えるのは難しくなります。そこで、ジェスチャーや絵を描くことなどを積極的に取り入れ、患者さん側からのコミュニケーションが開始できるように工夫します。

リハビリテーションは、単に機能回復訓練だけを示すものではありません。障害をもちながらも再び、その人らしく生きていくことをいうのです。

失語症の回復へ

失語症では、言語中枢が損傷を受けた直後は言語能力が著しく低下しますが、言語リハビリテーションと共に徐々に回復していきます。回復の過程は、数年にわたることもあります。

日常会話は支障ない程度にまで回復する人もいれば、仕事に復帰できる程度にまで回復する人もいます。年齢が若く、脳の損傷の範囲や程度が小さいほど言語能力が回復しやすいといわれています。

一方で、脳卒中を繰り返し発症回数が多い人は回復に時間がかかることがあります。失語症の治療の目的は言語能力の回復ですが、最終的には、言葉を使って豊かにコミュニケーションが取れるようになることが目標です。

言語能力が完全に元に戻らない場合でも、回復した言葉と共に、ほかの手段も利用してコミュニケーションが取れれば日常生活の課題は少なくなります。言葉以外にも、身振りや表情、イントネーション、雰囲気を読むことなど、コミュニケーションに役立つ手段は数多くあります。

失語症の治療では、言語能力の回復の程度のみに着目しがちです。しかし最終目標を見据えて、失語症のある人本人が、言葉を含めたさまざまな手段を利用してコミュニケーションを取る意欲を持ち続けることが重要となります。

特に介護保険を使えない若年齢層の方は家で引きこもりがちになってしまうこともあります。そのような場合、当事者会などに参加するのも一つの手です。

失語症のある人が利用できる支援

失語症の治療は長期にわたることが多いため、焦らずに療養できる環境づくりが必要となります。環境づくりには、言語リハビリテーションを受ける医療機関への転院や、休職をすることになった場合のお金の工面などが含まれます。

個々のケースにより利用できる支援が異なるため、まずは病院の医療相談窓口や担当の言語聴覚士、市区町村の保健福祉センターなどに相談してみましょう。

例えば、失語症に加えて体にまひなどの症状がある場合、身体障害者手帳が取得できる可能性があります。手帳が交付されると、公共交通機関の運賃割引や税金の控除などの経済的な支援が受けられるほか、手厚いサポートを受けながら働くことができる「障害者雇用」への応募が可能になります。

また、症状によって日常生活や仕事に支障が出ている場合は、障害年金が支給される可能性もあります。ただし、支給に至るには医師の診断や日本年金機構の審査を通る必要があります。

そのほか、失語症自体は適用外ですが、脳血管疾患により40~64歳で要支援(日常生活を送るのに支障がある状態)または要介護(介護を必要とする状態)状態になった人は、介護保険制度による介護サービスを受けることができます。

失語症の方とコミュニケーションをとるときのポイント6つ

失語症の方と円滑なコミュニケーションをとるための6つのポイントをご紹介します。

①話しかけるときは、ゆっくりとわかりやすい言葉遣いで話しかけましょう。

②話しかけるときには、やさしい漢字や絵、図などを書いたり、ジェスチャーや実物などを
示したりすると、理解されやすいでしょう。

③言葉が出にくいときは、「はい」「いいえ」で答えられるよう質問を工夫しましょう。
患者さんの言いたいことを推測して、考えられる答えを書いて示すことも有効です。

④言葉が出ないときは、せかさないで少し待ってあげます。
ただし、待ち過ぎると、かえって患者さんのストレスになります。適当なところで、「~のことですか?」などと助け船をだしてあげましょう。

⑤患者さんの言い間違いを、とがめたり、笑ったり、何度も言い直しをさせたりすることは避けてください。

⑥失語症の患者さんは、五十音表で、うまく言葉がつづれないことが多いので、使わないでおきましょう。

失語症の種類により症状の現れ方が異なりますが、体に障害がない人の場合は、外見からは失語症があることが分からないため、他人から誤解を受けやすい傾向にあります。

ある日突然言葉を自由に使えない状況に置かれたことのショックや、生活が変わってしまったこと、自分の状況を他人にうまく説明できないことなど、失語症のある人は多くのつらさを抱えています。

一人で抱え込まず、医師や言語聴覚士、支援制度などを利用しながら回復への道を焦らずに歩んでいきましょう。

 

【参考資料】
厚生労働省「脳血管疾患の総患者数は117万9,000人」「平成26年患者調査の概況」
NPO法人全国失語症友の会連合会「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」調査結果(抜粋)2014
第2回鳥栖地域リハビリテーション研修会「失語症、構音障害者とのコミュニケーションのとり方」 平成18年7月20日
森岡悦子「総説 失語症によるコミュニケーション障害 −言語聴覚療法と言語的環境調整について−」保険医療学雑誌  8巻1号 73-79 2017
竹内愛子 河内十郎『脳卒中後のコミュニケーション障害 改訂第2版 成人コミュニケーション障害者のリハビリテーション:失語症を中心に』2012 協同医書出版

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