
眼科医。川崎医大卒業後、2001年より大阪市大眼科医局に入局。
医局人事により公立忠岡病院、城東中央病院、和泉市民病院、神戸医療センター西市民病院勤務を経た後、医局人事を離れ高石藤井病院へ入職。
毎日のようにスマホの画面を見続けることで、若い年代で「目の不調」を訴える方が多くなっています。
スマホは老若男女誰もが持ち歩くようになりましたが、特に“スマホがなかった時代”を知らない若い世代では、スマホの過度な使用が「急性内斜視」を招く原因になっているようです。
急性内斜視とは、左右のどちらかの瞳が内側に向いてしまった病気のことです。
「日本弱視斜視学会」が行った眼科医を対象にしたアンケート調査(18年12月~19年2月)では、スマホの使い過ぎが急性内斜視と関連しているのではないかという回答が、「77%」という高い数値をはじき出しました。
この結果を踏まえ、コープおおさか病院の中谷倫子先生に、スマホ依存と急性内斜視の関係についてお話を伺いました。
スマホを使い続けることへのさまざまな悪影響
スマホは年々、機能性が進化しています。その便利さゆえに、ついついスマホを手にしては使い過ぎてしまうかもしれません。
そして、好奇心旺盛の子どもにとっては、スマホはどうしても夢中になってしまうツールの一つと言えるでしょう。
では実際、子どもの頃からスマホを日常的に使い続けることでどんな悪影響があるのでしょうか?
中谷先生は「現在研究が進められている段階ですが、視力や目への影響・家庭でのコミュニケーションの低下・睡眠障害・成績の低下などの影響があると考えられるようになってきました」と話します。
スマホを長時間使い続けることで単純に目だけに悪影響が及ぶわけではなく、家族や周りと接する機会が減ることで、大切な人間関係を構築する時間を奪われることになります。
さらに睡眠にも影響することで、学校での授業も集中力を欠いた状態で受けることになってしまいます。
子どもが「急性内斜視」になりやすい理由とは?
前述した「急性内斜視」との関連性については、調査結果を踏まえ、中谷先生はこう話してくれました。
「子どもは輻輳(ふくそう:脳からの目を寄らせる指令)が大人に比べて強いと言われています。(※大人は加齢によって輻輳が低下していきます)
そのため、いつでもスマホを手に取って見ることができる環境を与えれば、目を寄らせるという機能を解除する間がありません。
このような環境が多くの子どもの急性内斜視を招いてしまっただけに、“現代病”と言えるのではないでしょうか」
スマホによる“現代病”と称された急性内斜視ですが、通常の斜視との違いや、子どもがなりやすい原因も解説してもらいました。
「斜視は、片方の瞳が内側に寄って左右の目の視線がずれ、弱視・複視などの症状が現れます。急性内斜視は、この状態が短期間で発症するものです。
大人であれば、目を寄らせてものや画面を見ていると疲れが出て、休憩を入れたり見るのをやめたりしますが、若いと疲れを感じることがありません。
長時間の使用が、急激に症状を進行させます」
急性内斜視の兆候を見逃さない
子どもはスマホの画面に集中し過ぎて、気づかないうちに目に大きな代償を負うことになってしまいます。
中谷先生に以下のような兆候が見られたら「要注意」というポイントを挙げてもらいました。
・ものを見るとき片目の方が見えやすい
・ものが見えにくい
・ぶれて見える
目を守りながら「スマホを活用する」4つのポイント
ただ、現代社会ではスマホを全く使用しないで生活することはなかなか難しいかと思います。そんな中、中谷先生にスマホを活用する4つのポイントを教えていただきました。
①30cm以上離す
② 1日4時間未満
③ 使用時間を含め親が管理する
④ 目のトレーニングを取り入れる
①②で挙げてもらっているように「スマホの画面を見る距離が近すぎるのは、斜視の原因。長時間の使用も避けるようにしましょう」と説明します。
目とスマホの画面の距離は「30㎝以上」離すことが望ましく、使用時間は1日4時間未満が適切だそうです。
さらに③でいうと、大切な子どもの目を守るためにも、スマホの使用は親御さんがしっかりと管理することが必要になってきます。
また、④の目のトレーニングとは、下記のような内容を表しています。
目のトレーニング
・目を閉じる・開くという動作を行う
・目を「上下・左右」に動かす
・近くと遠くを交互にみる
これらを念頭に入ながら、スマホを上手に利用してみてください。
治療法については?
中谷先生によると、急性内斜視を招く原因はスマホの長時間の使用だけでなく「小さいゲーム機の持ち歩きも原因」となるようです。
小型ゲーム機もスマホと同様、日常的に手放さない子どもが多いのが現実です。
もしも急性内斜視と診断されてしまった場合、どんな治療法を施すことになるのか、中谷先生はこのように話してくれました。
「矯正のためにメガネをかけますが、治らない場合は手術が必要になります」
治らない場合は手術に発展するケースもあり、こうした事態を予防するためにも、スマホの画面と目の距離を適切に保って長時間の使用は避けるようにしましょう。
もしも気になる兆候が見られた場合は、お近くの眼科医で診断を受けさすことが大切です。
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